メモ:戦後マンガ史2(1959−1969)

■1959−1969
流れ:貸本漫画の衰退→月刊誌から週刊誌→劇画→少女漫画、青年向け漫画

▲劇画
 50年代半ば、貸本漫画の世界で、関西の若い漫画家が中心となり、リアルな描法、より実録的な内容を持つ漫画を書き始めた。さいとう・たかを佐藤まさあき辰巳ヨシヒロ松本正彦らこうした漫画家たちは、自分たちの漫画を、従来の漫画へのアンチテーゼとその作風のアピールとして「劇画」と呼び、貸本向け雑誌「影」「街」を根城に活動した。だが、55年ピークの悪書追放運動(子ども漫画排斥運動)やテレビ受信台数の増加、それをうけた貸本店の衰退によって、50年代末には勢いを失いだす。

 しかし、劇画のピークを過ぎてからも、時代性と結びついて知識人たちにも注目された白戸三平『忍者武芸帳』や、私漫画の旗手永島慎二の『漫画家残酷物語』、あるいは漫画家個人のシリーズもの(山本まさはる『山本まさはるシリーズ』、矢代まさこ『ようこシリーズ』64など)など様々な作品が発表されていた。また、貸本漫画の世界が漫画出版のなかで無秩序かつ自由な世界であったことは、貸本漫画の世界からつげ義春水島新司楳図かずおが出発しているところからもうかがうことができる。


▲少年向け漫画週刊誌
 50年代末、一方の中央出版界も、戦後漫画文化を支えた団塊の世代の成長と、テレビの普及によって低落に悩んでいた。その打開策として、ジャーナリズムではすでになされていた週刊誌化を小学館(サンデー)と講談社(マガジン)が決意し、1959年3月17日に同時発売された。初期にはトキワ荘グループ人脈を中心とした有能な才能(手塚、寺田、横山、赤塚、藤子など)をかかえこんだ「サンデー」が有力であった。こうした作品は少年のギャグ感覚、冒険心、SFマインドを刺激、多くがアニメ化し、同じ漫画・アニメが共通体験となる時代であった。
 初期はふるわなかった「マガジン」は、劇画家を含む、貸本で人気を得た漫画家を集め、紙面を活性化させていった(水木、さいとう、川崎のぼる、白戸など)。もともと関西出身の劇画家たちは手塚を強く意識していたから、手塚漫画VS劇画という全時代の対決の構図はこの二つの少年週刊誌にもちこされてきたといってもいい。
 ところで、戦後のストーリー漫画は、戦前の少年少女小説がもっていたジャンル(SF、学園、生活ユーモア、冒険探検、熱血)をそっくり受け継いだメディアだった。
水木しげるは、妖怪ものという紙芝居特有の世界を追加したといえる。

 60年代にはいると漫画の原作者が脚光を浴びるようになる。梶原一騎(=高森朝雄)の活躍もこの時期である。梶原原作、川崎画の『巨人の星』は大ヒットし、父権の教育性という「マガジン」の編集方向を代表する作品となった。梶原以外の原作者や劇作家以外の作品も多数ヒットし、戦記ものでは戦闘シーンを、野球では魔球を、ボクシングでは闘いを見せ場にするという少年漫画独自の展開方法を模索していく。こうしてマガジンは100万部をこえる漫画誌に成長していったのだ。
 60年代はじめにはまた、戦記ものブームがおこり(『ゼロ戦レッド』『紫電改のタカ』など)メカと戦闘シーンを売り物にした。こうした戦記ものや忍者漫画も含め、従来までの善と悪の対立という物語構成は影を潜め、技と技の対立を売り物にしたストーリー作りに移行し、以降の物語パターンの主要戦略となる。

▲少女向け漫画週刊誌
 少年週刊誌に少し遅れて、63年に「フレンド」(講談社)と「マーガレット」(集英社)が創刊される。「フレンド」は里中満智子望月あきら庄司陽子大和和紀などが、「マーガレット」には西谷祥子浦野千賀子水野英子池田理代子などが執筆。以後少女漫画の表現とテーマは大きく広がり、多様な彩りをもっていく。
 64年は東京オリンピック、女子バレー日本代表の活躍、「根性」が流行語になるなどの世相をうけ、少年少女漫画にもスポーツを題材にした根性ものがブームになる。少年漫画では『巨人の星』(66)が代表だが、少女漫画では『サインはV!』や『アタックNo.1』がその代表だろう。それらはアニメ化、テレビドラマ化されたりした。


▲マニア誌、青年誌
 60年代後半には、漫画とともに育った世代の成長に伴って、漫画にマニアックにこだわる読者層を生み出した(漫画マニアの誕生)。こうした青年たちに向けて、64年「ガロ」(青林堂)、67年「COM」(虫プロ商事)という専門の漫画雑誌が刊行される。これらの雑誌は発行部数は極めて少なかったが、影響力は大きかった(また、採算を度外視した雑誌の刊行も異例で、漫画文化が熱をもった証でもある)。
 「ガロ」は長井勝一が白戸三平の『カムイ伝』の発表場所確保のために創刊した専門誌であり、政治、文化、経済激動の時代性とリンクして様々な話題作を掲載していった。手塚治虫虫プロ商事を設立し、創刊した「COM」は手塚自身の作品をはじめ石森章太郎永島慎二らの漫画が注目を浴びた。新人欄からは、竹宮恵子青柳裕介やまだ紫岡田史子、諸星義影(現諸星大二郎)などの才能が育つ。「ガロ」や「COM」が自己表現的指向の強い漫画を多数掲載し、漫画が単なるエンターテインメントを超えた表現として定着するきっかけを与えた。「ガロ」に掲載されたつげ義春の『ねじ式』はさまざまな議論を呼び、「漫画が芸術になった」と社会的にも注目された。

 70年代に入ると、青年向け漫画の傾向は加速していくが、ストーリー漫画を読み継いできた世代の成長に合わせた結果といえるだろう。だが同時に「ガロ」や「COM」が提供しない、より大衆的なエンターテインメントを提供する雑誌も60年代後半に出そろう(67「アクション」67「ヤングコミック」68「ビッグコミック」68「プレイコミック」など)。この中から、モンキーパンチの『ルパン三世』(67)、さいとうたかをの『ゴルゴ13』(69)などの人気作品が生まれる。


▲おまけ ヒーロー像変遷史
 神話や伝説、民話と同じく、子ども向けの大衆文化である漫画において、魅力あるキャラクターというのは人並み外れた能力をもつ「スーパーヒーロー」であった(アトム、月光仮面、赤銅鈴之介など)。一方、「笑い」も担当していた漫画は、何をやってもダメというアンチヒーローも同時に描きこまれていた(のらくろ丸出だめ夫など)。
 ところが、60年代に入ると、アナーキーな内面をもつヒーローが支持を集めるようになる(ジョー、ゴルゴ、無用ノ介、三つ目、ブラックジャックなど)。
社会からドロップアウトした、あるいはアウトサイダーとして暮らすヒーローは、若者が従来の風俗、良識に疑問符を付きつけた60年代の時代的な要請であったのかもしれない。


■主なマンガ
▲週刊誌、青年誌時代 1959-1969(ベビーブーマー世代が中学生へ)
△少年漫画
・貸本漫画、劇画
1958 さいとうたかを『台風五郎』 欧米ハードボイルド小説風 アクション劇画
1959 白戸三平 『忍者武芸帳 影丸伝』 貸本漫画が生み出した最高傑作とも 闘いの描写
1960 水木しげる鬼太郎夜話』 紙芝居にヒントを得て貸本漫画としてスタート
1961 永島慎二漫画家残酷物語私漫画 青年期特有の倫理観の反映 
1961 佐藤まさあき『黒い傷痕の男』 暗い怒りが充溢している不公平な社会への憤り
1962 平田弘史血だるま剣法
1964 矢代まさこ 『ようこシリーズ』 様々な少女をようこという名前で演じさせた28巻

・週刊誌
サンデー(人気ギャグ漫画を生む)
1959 手塚治虫 『0マン』人類を遥かに凌駕する知力、体力をもつ0マン 長編SF
1959 寺田ヒロオ 『スポーツマン金太郎』 子どもが大人に交じってプロ野球のスター選手になる
1961 横山光輝伊賀の影丸』 忍者ブームに火付け役 漫画的アイディアの術(木の葉隠れの術)
1962 赤塚不二夫 『おそ松くん』 赤塚漫画に不可欠なキャラを生んだ作品
1964 藤子不二雄オバケのQ太郎』 無芸大食のお化け
1965 久松文雄 『スーパージェッター』 本格的娯楽SF SF的小道具(反重力ベルト)
1967 藤子不二雄パーマン』 宇宙人に突然選ばれた三枚目ヒーロー
1965 白戸三平 『カムイ外伝

マガジン(長編ストーリー漫画のヒット)
1961 福本和也
ちばてつや 『ちかいの魔球』 水島や巨人の星へ影響 本格野球漫
1962 梶原一騎
吉田竜夫 『チャンピオン太』 梶原デビュー作 科学的根拠のある必殺技など
1963 福本和也
一峰大二 『黒い秘密兵器』 秘儀、魔球もの 明朗野球漫
1963 平井和正
桑田次郎 『8マン』
1963 ちばてつや紫電改のタカ』 戦争とは何か
1964 森田拳次丸出だめ夫』 日常ユーモア漫画 
1965 水木しげるゲゲゲの鬼太郎』  鬼太郎夜話の妖怪漫画の代表作
1966 梶原一騎
川崎のぼる巨人の星』 スポ根成長漫画のひとつの完成形
1967 平井和正
石森章太郎幻魔大戦』 幻魔、エスパー、怪物が入り乱れる神話的SFロマン
1967 赤塚不二雄 『天才バカボン
1967 さいとうたかを『無用ノ介』 計算された構図とストリー 迫力の決闘シーン
1968 高森朝雄
ちばてつやあしたのジョー』 様々な社会現象を巻き起こした

・その他
少年
 1961 白戸三平 『サスケ』
 1962 関谷ひろし 『ストップ!にいちゃん』
 1964 藤子不二雄
    藤子不二雄A『忍者ハットリくん
キング
 1964 石森章太郎サイボーグ009』 人の根源的な悪を問う
ジャンプ
 1968 永井豪ハレンチ学園』 これまえにない破壊力のあるギャグ
 1968 本宮ひろ志男一匹ガキ大将


△青年誌(団塊の世代が20代へ)
ガロ
1964 白戸三平 『カムイ伝』 未完の壮大な歴史ドラマ
1967 つげ義春 『紅い花』 初潮の血が川に流れるのを登場人物を通して紅い花に例える
1968 つげ義春ねじ式』 各方面に大きな衝撃 話題作となる
1968 滝田ゆう 『寺島町奇譚』 「漫画が文芸に勝るとも劣らない世界を表現した」
1970 林静一 『赤色エレジー』
1971 安部慎一 『美代子阿佐谷気分』

COM
1967 手塚治虫火の鳥』 大河ロマンの代表作
1967 石森章太郎 『章太郎のファンタジーワールド ジュン』 絵とコマの流れだけでイメージ構築を試みた
1967 永島慎二 『フーテン』 私小説的漫画の極北
1968 山上たつひこ『人類戦記』
1968 岡田史子 『ガラス玉』 青年期の生の喪失感 強い観念的な内容をもつ作品
1969 矢代まさこノアを探して』

アクション
 1967 モンキーパンチ 『ルパン三世
ビッグコミック
 1969 さいとうたかをゴルゴ13』 漫画を成人のエンターテインメントに


△少女漫画
1960 水野英子 『星のたてごと』(少女クラブ) 少女漫画ではかつてなかった壮大なスケールの物語
1962 みつはしちかこ小さな恋のものがたり』(美しい十代)牧歌的な淡い恋

・月刊誌
りぼん
1960 牧美也子 『マキの口笛』 バレエ漫画
1962 赤塚不二夫ひみつのアッコちゃん』テレビアニメ化
1965 巴里夫 『5年ひばり組』 古き良き子ども時代 人生の凝縮
1966 横山光輝魔法使いサリー』 魔女っ子もの

・週刊誌
少女フレンド
1966 楳図かずお 『へび少女』 恐怖漫画を確立した初期代表作
1967 里中満智子 『ナナとリリ』
1968 神保史郎作
望月あきら画『サインはV!』致命的欠点、特訓、ライバル、チームメイトの死
1968 細川知栄子 『あこがれ』 平凡な少女が主人公の波乱に満ちた展開
1969 津田幸夫作
細野みち子画『金メダルへのターン』

マーガレット
1964 水野英子 『白いトロイカ
1965 望月あきら 『すきすきビッキ先生』
1965 西谷祥子 『マリイ・ルウ』
1968 浦野千賀子アタックNo.1』 スポ根ものの古典的作品
1969 わたなべまさこ『ガラスの城』 善と悪の葛藤
1969 志賀公江 『スマッシュをきめろ!』スポ根


学年誌(ストーリーものへ)
トキワ荘グループ(寺田、藤子、赤塚)や川崎のぼるいなかっぺ大将』など