メモ:戦後マンガ史3(1970−1980年)

■1970−1980年

▲「花の24年組
 70年代にかけて、漫画を読んで育った世代が漫画を描き始め、新感覚派の少女漫画が勢いを持つ。「花の24年組」と呼ばれる昭和24年前後うまれのマンガ家たちの作品である(竹宮恵子萩尾望都樹村みのり大島弓子山岸涼子など)。彼女たちは「ガロ」や「COM」から自己表現としての漫画の体質を受け継ぎ、個人の思想信条を主とした漫画を描く。竹宮恵子の『風と木の詩』、萩尾望都ポーの一族』『トーマの心臓』、樹村みのり『贈り物』などには思春期の傷つきやすい感性が抒情性豊かなタッチに彩られ、男性の読者を獲得することになった。彼女たちはしばしば思春期の感性を少年に仮託し、少年愛を題材として扱ったが、それはその後ボーイズラブという形に変形して続いていくことになる。(24年組以外の少女漫画では、池田の『ベルサイユのばら』や大和和紀の『はいからさんが通る』など、読者の上限を広げるヒット作を生み出した。)


▲青年コミック誌の隆盛
 こうした自己表現的志向をもつ漫画は、少女漫画以外にも飛び火し、青年向け劇画にまで広がった。そうして、60年代後半から、青年コミック誌が次々に創刊されその隆盛を極めた(「コミックmagazine」「アクション」「ヤングコミック」「ビッグコミック」「プレイコミック」「リイドコミック」「ビッグコミックオリジナル」など)。これら漫画雑誌からさまざまな漫画が生み出されたが、それらは時代を映すだけでなく、たとえば上村一夫『同棲時代』や林静一『赤色エレジー』などは男女の新たな風俗を生み出していったとされている。アングラ劇がはやり、吉田拓郎などのフォークソングが流行する時代の中で、劇画は時代の感情をダイレクトに表現する装置として機能し、愛や憎悪、性と暴力、倦怠、虚無など青年期特有の心理が描きこまれることが多かった。また、70年代末には大友克洋も登場し、漫画のビジュアル面に大変革を起こした。


▲少年誌の変貌
 「サンデー」や「マガジン」をはじめ、後発の「キング」「チャンピオン」などの少年誌も読者対象を青年層にまでひろげていった。特に青年層の動向に敏感だった「マガジン」は学生運動をはじめとするカウンターカルチャー高揚の象徴として、「右手に朝日ジャーナル、左手に少年マガジン」とまでいわれた。これら少年誌では、多様なテーマ、物語展開、キャラクターを生み、青年層向け、少年層向けに関わらず、話題作がつぎつぎに誕生した(永井豪デビルマン』、ジョージ秋山『アシュラ』、梶原・つのだじろう空手バカ一代』、水島新司ドカベン』など)。

 このように、既発の少年誌が対象年齢をあげていくなか、小学生など従来の読者層に的を絞って現れたのが、68年創刊の「ジャンプ」と77年創刊の「コロコロコミック」である。「ジャンプ」は、永井『ハレンチ学園』や中沢『はだしのゲン』など、高い自由度と新人の起用によってつぎつぎにヒット作を生み出していく。そして「友情、努力、勝利」という編集方針で子どもの欲望とマッチし、その後の神話を作り上げていった。一方「コロコロ」は初期に藤子・F・不二雄の作品を中心に子どもの心をとらえ、その後ゲームやアニメの流行とタイアップし、子どもの娯楽を先導する役割を果たしていった。


▲マイナー出版
 70年代後半には、以上のような中央の大手出版とは違う弱小出版社による劇画誌が多数うまれた。特にこの時期は性表現を中心とした劇画が盛んになり、それらは「三流(エロ)劇画」と名付けられた。これらの劇画誌の中からは今日でも再読するに値する表現性をもつ作品もうまれ、たんにセックス描写だけを売り物にした出版物ではなく、マイナー文化の拠点としての性格も持っていた。代表誌は「漫画エロジェニカ」「劇画アリス」「漫画大快楽」などで、主な執筆者は榊まさる石井隆清水おさむ村祖俊一羽中ルイ、さらに近藤ようこ山田詠美(当時山田双葉)なども執筆していた。一部劇画誌は猥褻として摘発される事態もあったが、「性」というテーマは三流劇画誌にとどまらず、70年代に表舞台に登場し、80年代に入っても受け継がれ、ロリコン漫画、美少女漫画、萌え系漫画などをも誕生させていく。

▲おまけ1 ヒーロー像変遷史
 スーパーヒーローと正反対のズッコケヒーローがこのんで描かれた50年代から、アンチヒーロー的なアナーキーキャラがうまれた60年代へ。技と技の対立がドラマの中心軸となる漫画が普及する70年代にはいると、特殊な技をもつキャラクター=テクニカルヒーローという新しいヒーロー像がそれに加わるのだった。「釘師サブやん」や「包丁人味平」、「釣りキチ三平」「ガラスの仮面」「アストロ球団」「1・2の三四郎」などでは、善と悪の対立は見せ場になっておらず、技と技の対立が中心になっているのだ。

▲おまけ2 萩尾望都のマンガ史的位置づけ
 少女漫画のみならず、戦後の日本漫画において多大な影響を与えた「花の24年組」はそれぞれ強い個性をもった作家たちであったが、その中でも「もっとも影響力を与えた」として萩尾がその代表的存在に扱われることが多い。もちろん彼女の内容、作画表現の革新性からもきているが、それだけでなく、奥友志津子、清水玲子ラインや、「35年組」などを筆頭に、間接的・直接的な後継者が多かったことも大きく影響していると思われる。

 それまでの少女漫画はシンデレラ譚を思わせるものが大半をしめていたが、彼女たちによって、幻想味の強い作品、文学臭のする作品、構成の骨太な作品、性描写や少年愛を描いた作品など従来にみられない作品が描かれていくようになった。とくに少女漫画で珍しかったSF的モチーフを用いて、少女の内面描いたことは、後の少女漫画SFに多大な影響を与えた。また『トーマの心臓』の主題である「少年愛」や、『半神」の「双子」、『メッシュ』の「精神分析的世界」といったその後広く継承されていく少女漫画のテーマの原点を彼女にみることができる。
 以前「アトム命題論でたどるマンガ史」で紹介したアトム命題論にならえば、「性的な身体の発見」と「内面の発見」に伴い、それを表現するための手段として台詞の位相化(フキダシ外の台詞)をうまく使い、表現形態として確立させたということも彼女の功績である。絵そのものについていえば、水野英子岡田史子の影響をたしかにうけつつも、いわゆる少女漫画的な身体とはやはり異なりたしかな肉体性(と精神性)をもっており、「お人形さんからの脱却」と評されもした。
 彼女や24年組の漫画は様式性からの脱却であったため、男性や少女漫画を読まなかった層をも読者に取り込むこととなった。また逆に少女漫画家が少年誌や青年誌に執筆したり少女漫画を描かない女流作家があらわれるようになった。

 こうした様式性からの脱却、分野の越境は、通俗的で様式的ないかにも少女漫画らしい少女漫画の魅力がなくなることでもある。したがってそういった漫画は影をひそめるかのようにみえた。しかし、『ポーの一族』が76年、時代に逆行するような、徹底的な通俗性と様式性をもち、極端な足長スタイルと美男の恋人があらわれるいかにも少女漫画らしい大河ドラマ作品が発表されヒットする。それが、美内すずめ『ガラスの仮面』である。ここにはリアリズムや近代的自我の主題だのは一切あらわれない。だが、この作品のもつ圧倒的なおもしろさは、「世界観としての物語」のもつ根源的魅力によるものだろう。この作品によって、通俗性と様式性をもつ少女漫画は絶滅せずに済んだのかもしれない。

 いずれにせよ、第二の手塚治虫と評される萩尾望都の影響は内容面、表現面ともにはかりしれないものがあり、彼女抜きでは戦後マンガ史は語れないようになっている。


■主なマンガ
△少女漫画
1972 萩尾望都ポーの一族』 年を取らない吸血鬼の悲哀と限られた生をもつ人間
1972 池田理代子ベルサイユのばら』 男として育てられた娘 歴史ロマン
1973 山本鈴美香エースをねらえ!』 少女スポ根 魔球抜きでリアルにテニスを描いた画期的作品
1973 里中満智子アリエスの乙女たち
1973 大島弓子ミモザ館でつかまえて』個性的セリフ回し、自在なコマ割り
1974 萩尾望都トーマの心臓』     トーマの死をうけ自己と向き合う少年達の葛藤
1974 樹村みのり 『贈り物』
1974 陸岡A子 『たそがれ時に見つけたの』「乙女ちっく」漫画の代表的短編
1975 大和和紀はいからさんが通る』 大正時代後期新進の思想持つ主人公の恋心と成長
1976 竹宮恵子風と木の詩』 同性愛がたどるせつなくも美しい純愛物語
1976 美内すずえガラスの仮面』     少女スポ根 演劇 未完の名作
1977 庄司陽子生徒諸君!』 人の死、愛と苦悩の切実さを深く描いた学園青春漫画
1977 青池保子エロイカより愛をこめて』スパイ・アクション・コメディー 同性愛をにおわせる
1977 竹宮恵子 『地球へ(テラへ)』 人類のペシミスティックな未来を描く壮大SFロマン
1979 田淵由美子『フランス窓便り』   「乙女ちっく」漫画の代表作
1978 萩尾望都スター・レッド』   本格SF
1979 大和和紀あさきゆめみし』    源氏物語を忠実に漫画家した大河ラブロマンス
1980 高野文子 『田辺のつる』 少女気分の老婆を記号的な少女姿で描く手法や、斬新な世界観をつくりあげた。
『わたしたちの始まり』『解放の最初の日』


△青年コミック誌
1967 モンキーパンチ 『ルパン三世
1969 さいとうたかを 『ゴルゴ13』
1970 林静一 『赤色エレジー』 独特のコマ展開、抑制された台詞、「前衛漫画」
1970 小池一夫
小島剛夕子連れ狼』     迫力の死闘 親子のストイックな生き方
1970 バロン吉元 『柔俠伝』       青春劇画の代表作 柔術家の人生大河ロマン
1971 小池一夫
芳谷圭児 『高校生無頼控』
1971 佐々木マキ 『ピクルス街異聞』 ストーリーの呪縛から解放 前衛的作品
1971 安部慎一 『美代子阿佐谷気分』心情を絶対的な観念に高めた 「文学的」 観念的
1972 上村一夫 『同棲時代』 70年代安保後の学生運動の退潮期を象徴する作品 同棲が流行語に
1972 横山光輝三国志』  単行本60巻の大河ロマン 洗練された構成、雄大な構想力
1975 どおくまんプロ『嗚呼!!花の応援団』 パワフルギャグ 「クェックエッ」
1977 石井隆 『天使のはらわた』   「性」を媒介に自暴自棄と焦燥を抱え込む若者たちの関係性への渇望をハードボイルドタッチで
1980 大友克洋童夢』    映画的かつ大胆なカット割り、均質で繊細なタッチ、物語構成の緻密さなど漫画表現に大きな影響
1980 矢作俊彦
大友克洋気分はもう戦争』 「政治の季節」の終わった80年代という時代の空気を予見した先駆的作品

△少年誌
・既発誌
1970 藤子不二雄ドラえもん』 日本を代表する児童漫画の大ロングセラー
1970 山上たつひこ 『光る風』   近未来の日本軍の横暴をグロテスクな素材とともに表現
1970 真樹日佐夫
影丸譲也  『ワル』    ニヒルな悪漢 ヒーロー 汚い大人VS怒れる若者
1970 みなもと太郎『ホモホモ7』劇画とギャグ漫画調のタッチがめまぐるしく転換
1970 ジョージ秋山銭ゲバ』  人間の抱える欲望、善悪のモラルへの切り込んだ問題作
1970 ジョージ秋山『アシュラ』 極限状況の中でいきることの根源的な意味を追求
1971 牛次郎
ビッグ錠釘師サブやん』 娯楽としてのパチンコ 職業漫画の走り
1971 梶原一騎
つのだじろう空手バカ一代』  実録漫画の代表作 空手ブーム
1971 松本零士男おいどん』    貧乏青春漫画の代表作
1972 水島新司ドカベン』      従来のスポコンとは一線を画す 野球漫画の代表作
1972 手塚治虫ブッダ』       仏典の基礎に自由な発想で物語性を高めた野心作
1972 永井豪デビルマン』    人間の原罪と終末 人間の心の闇 斬新なキャラクター造形
1973 矢口高雄釣りキチ三平』  フィッシングの細部まで描きこまれた 釣りブーム
1973 ちばてつや 『おれは撤兵』    野生児主人公の日常 明朗学園漫画
1973 やなせたかしアンパンマン』   88年テレビアニメ化
1973 手塚治虫ブラックジャック』 手塚キャラ総出演 医療テーマ
1974 山上たつひこがきデカ』     劇画タッチで描かれた初の本格ギャグ漫画 過激な下ネタで問題に 
1977 松本零士銀河鉄道999』  叙情的ロマンティシズムの香り
1978 高橋留美子うる星やつら』   少年漫画界に新しい潮流を生み出したハチャメチャラブコメ
1978 柳沢みきお 『跳んだカップル』 男性誌にラブコメ路線を確立した作品
1978 小林まこと 『1・2の三四郎』  本格スポーツ漫画にギャグ路線を導入。のちのギャグ・スポーツ漫画に影響
1978 吾妻ひでお不条理日記』   古今東西のSFパロディ。ニューウェーブと呼ばれる潮流の指標
1980 あだち充 『みゆき』       高校生男女の葛藤をコミカルに明るく描いた。少年誌にラブコメブームを巻き起こす。
1980 高橋留美子めぞん一刻』    恋と笑いと涙のラブコメの傑作

・ジャンプ
1968 永井豪ハレンチ学園
1968 本宮ひろ志男一匹ガキ大将
1970 吉沢やすみど根性ガエル』  何度もアニメ化された
1972 ちばあきお 『キャプテン』 根性とも魔球とも無縁な野球少年たち
1973 中沢啓治はだしのゲン』   戦争の悲惨さ 89年アニメ化
1973 牛次郎
ビッグ錠 『包丁人撤兵』 料理対決・職業漫画の走り 
1976 小林よしのり東大一直線
1976 秋本治こちら葛飾区亀有公園前派出所』ドタバタコメディーから社会はストーリーまで
1979 ゆでたまごキン肉マン』 キン肉星の王子キン肉マンが世界一の超人をきめる超人オリンピックに参加
1980 鳥山明 『Dr.スランプ』   斬新な絵柄と表現で一世を風靡
80年代『北斗の拳』『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『まじかる☆タルるーとくん』へ続く