「梅雨」の社会的構築
「梅雨」などない!われわれは騙されている!ということを言う戯言記事です。
私は昔(2002年あたり)から一貫して、「梅雨」などというものは存在しない!と友人に主張し続けてきました。しかし、「ソースは俺」という態度だったためか、だれも真剣に聞いてくれませんでした。そこで、ここでは「ソースは気象庁」を合言葉に、この主張を証明したいと思います!
▲「梅雨」などない!?
梅雨といえば、「じめじめしていて、雨の多い時期」ですよね。はい、そういうことになっています。twitterでも「ついにこの季節が来た」というTWが見られました。
しかし、本当に梅雨は「雨の多い時期」なのでしょうか?この「雨の多い時期」という言葉には、当然「他の時期と比べて」という意味合いが含まれています。「多い」は比較級ですから。このことを踏まえると「梅雨」という言葉は「ほかの月と比べて突出して雨の多い時期」を指していると思われます。
しかし、これから示すように、このような意味での「梅雨」など存在しません。気象庁が梅雨入りを発表してから、梅雨明けを発表するまでの間が特別に雨が多いわけではないのです。このような意味で「梅雨」は存在しません。
2010年のデータをみていきましょう。
気象庁サイトによると、2010年の関東の梅雨入りは6月13日、梅雨明けは7月17日です(この期間をここでは"梅雨期間"と呼ぶことにします)。梅雨期間とそのほかの時期の天気を比べてみましょう。
*この梅雨入り、梅雨明けは「梅雨入り宣言」や速報ではなく、気象庁が梅雨が終わってから実際の天気を見て確定したものです。
天気用語
雨 | 一時間に1ミリ以上 | 青色で表示 |
雨時々曇り | 雨が降るのは2分の1以上 | 青色で表示 |
曇り時々雨 | 雨が降るのは4分の1〜2分の1 | 緑色で表示 |
曇り一時雨 | 雨が降るのは4分の1以下 | 緑色で表示 |
昼 | 06:00-18:00 | |
夜 | 18:00-翌日06:00 |
*本稿では、「雨」と「雨時々曇り」を「雨が降った」としてカウントします。
2010年6,7月(横浜)の天気
日 | 天気(昼) | 天気(夜) |
---|---|---|
1 | 晴 | 晴 |
2 | 快晴 | 快晴 |
3 | 快晴 | 晴 |
4 | 晴 | 曇時々晴一時雨、雷を伴う |
5 | 曇後晴 | 曇一時雨 |
6 | 晴時々薄曇 | 薄曇時々晴 |
7 | 薄曇 | 曇 |
8 | 曇一時雨 | 雨時々曇 |
9 | 雨時々曇 | 曇後晴 |
10 | 快晴 | 曇一時雨 |
11 | 曇 | 曇後晴 |
12 | 晴 | 晴後一時曇 |
-- | 梅雨入り | -- |
13 | 曇 | 曇後雨 |
14 | 雨 | 曇時々雨一時晴 |
15 | 曇時々晴 | 雨一時曇 |
16 | 曇一時雨後晴 | 晴時々曇 |
17 | 薄曇時々晴 | 薄曇 |
18 | 曇後雨 | 雨 |
19 | 曇一時雨 | 曇 |
20 | 曇 | 曇時々雨 |
21 | 曇一時雨後時々晴 | 曇 |
22 | 曇後一時晴 | 晴後曇時々雨 |
23 | 雨時々曇 | 曇 |
24 | 曇後晴 | 曇 |
25 | 薄曇 | 曇 |
26 | 雨時々曇 | 雨一時曇 |
27 | 雨後曇 | 曇時々雨 |
28 | 曇一時雨、雷を伴う | 曇 |
29 | 曇一時雨 | 曇後雨 |
30 | 曇一時雨 | 曇 |
1 | 薄曇一時晴 | 薄曇後一時晴 |
2 | 曇一時晴 | 曇 |
3 | 曇時々雨 | 雨一時曇 |
4 | 曇時々晴 | 曇一時雨 |
5 | 曇一時晴 | 曇 |
6 | 曇一時晴 | 曇後時々雨 |
7 | 雨時々曇 | 雨後曇時々晴 |
8 | 晴後薄曇 | 曇 |
9 | 曇時々雨 | 曇時々雨後一時晴 |
10 | 薄曇 | 薄曇 |
11 | 曇後雨 | 雨後曇 |
12 | 曇時々雨 | 晴後曇 |
13 | 曇一時雨 | 曇時々雨 |
14 | 曇 | 曇 |
15 | 薄曇後晴 | 晴 |
16 | 晴 | 晴 |
17 | 晴時々薄曇 | 薄曇後晴 |
-- | 梅雨明け | -- |
18 | 晴 | 晴 |
19 | 晴後薄曇 | 薄曇一時晴 |
20 | 薄曇一時晴 | 薄曇 |
21 | 薄曇後晴 | 晴 |
22 | 快晴 | 曇時々晴一時雨、雷を伴う |
23 | 晴 | 曇後一時晴 |
24 | 晴 | 晴時々曇 |
25 | 晴 | 曇後晴 |
26 | 曇後時々晴 | 薄曇後一時晴、雷を伴う |
27 | 晴時々薄曇 | 晴一時薄曇 |
28 | 晴 | 薄曇時々晴後一時雨 |
29 | 雨一時曇 | 雨時々曇 |
30 | 曇時々雨後晴 | 曇 |
31 | 曇 | 薄曇 |
これをみるとたしかに梅雨とされた時期の間は期間外より雨が多いようです。とはいえ、梅雨の期間(34日間)に「雨が降った」のは11日間。一週間に平均3日程度です。では次の表を見て下さい。(ここで「雨が降った」は、昼・夜各12時間のうち6時間以上雨が降った場合を指します)
日 | 天気(午前) | 天気(午後) |
---|---|---|
1 | 曇 | 雨一時曇 |
2 | 曇一時雨 | 曇時々雨 |
3 | 薄曇時々晴 | 曇 |
4 | 曇後時々雨 | 雨後時々曇 |
5 | 晴時々曇 | 曇後一時雨 |
6 | 雨後一時曇 | 曇時々雨 |
7 | 雨 | 雨後曇 |
8 | 曇時々晴 | 曇一時晴 |
9 | 曇後みぞれ一時雨 | 雨一時雪 |
10 | 曇一時雨後晴 | 快晴 |
11 | 快晴 | 快晴 |
12 | 晴後曇 | 薄曇後晴 |
13 | 晴後薄曇 | 快晴 |
14 | 晴 | 晴時々曇 |
15 | 曇一時晴 | 大雨一時曇 |
16 | 晴一時曇 | 晴時々曇 |
17 | 晴時々曇 | 晴後一時薄曇 |
18 | 曇後時々晴 | 曇後時々雨 |
19 | 晴時々曇 | 晴 |
20 | 晴一時薄曇 | 曇時々晴後雨、雷を伴う |
21 | 晴一時雨、雷を伴う | 快晴 |
22 | 晴 | 曇後一時雨 |
23 | 晴時々曇一時雨 | 雨 |
24 | 雨 | 雨 |
25 | 雨 | 曇時々雨 |
26 | 曇時々晴一時雨 | 曇一時雨 |
27 | 晴時々曇 | 薄曇 |
28 | 曇後一時雨 | 曇一時雨 |
29 | 曇時々雨 | 晴一時曇 |
30 | 晴後一時薄曇 | 晴一時薄曇 |
31 | 曇 | 曇一時晴 |
これは、2010年3月のデータです。雨の無い時期がありますが、全体としてはかなり雨が降っていることが分かります。このひと月の間、「雨が降った」のは9日間。梅雨の時期より若干すくないですが、たかだか二日です(ここで「雨が降った」は、昼・夜各12時間のうち6時間以上雨が降った場合を指します)。
これと同様に2月、4月、9月も雨が多く、「雨が降った」のは2月は7日間(28日中)、4月は13日間(30日中)、9月は11日間(30日中)もありました。梅雨の時期と同じくらい、あるいはそれ以上雨が降っていることが分かります。雨が多いのは梅雨の時期だけではないのです(9月は秋雨ですが)。
降水量も同様に、梅雨の時期だけが特別多いというわけではありません。2010年6月13日から7月17日の34日間の降水量合計は196mmですが、3月の降水量合計は211mm、4月の降水量合計は234mm、9月は374mm、10月208.5mm、12月172mmです。
ちなみに横浜以外、2010年以外でもこのことは当てはまります。例えば練馬区の1981年から2010年までの降水量及び日照時間の平均を月別でみると以下のようになります。3月から10月は雨が多く降り、5,6月だけが特別多くなっているわけではないこと、5,6月だけが特別日照時間が少ないわけではないことがわかります。
月 | 降水量 | 日照時間(時間) |
1月 | 51.0mm | 173.1 |
2月 | 58.3mm | 156.2 |
3月 | 115.9mm | 158.1 |
4月 | 124.0mm | 167.0 |
5月 | 134,0mm | 160.3 |
6月 | 164.1mm | 120.9 |
7月 | 168.6mm | 134.7 |
8月 | 181.4mm | 157.1 |
9月 | 222.1mm | 113.1 |
10月 | 189.7mm | 118.9 |
11月 | 90.3mm | 137.0 |
12月 | 49.9mm | 166.7 |
以上で明らかなように、「梅雨」は一年のうちで雨が多いわけでも、雨の量が多いわけでもないのです!
最後に、2010年横浜の3月、4月、6月、7月、9月の日ごとの降水量の値のグラフを気象庁から拝借して載せておきます。これを見ると、梅雨とされている時期(6月13日〜7月17日)程度の降水量は他の月でも見られるし、連続的な雨も他の月でもみられることがよくわかります。
▲「梅雨」とはなにか、梅雨入りはどのように発表されるのか
さて、以上で私の主張は証明されたわけですが。
そもそも「梅雨」とはなんなのでしょうか。またなにをもって、気象庁はご丁寧に「梅雨入りしました」などと発表しているのでしょうか。気象庁HPを見てみましょう。
梅雨 | 「晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる現象、またはその期間」 |
梅雨入りの発表 | 「(備考)数日から一週間程度の天候予想に基づき、地方予報中枢官署が気象情報として発表する。情報文には予報的な要素を含んでいる。」 |
わかりにくい定義ですが、「曇りの日が多い」ということも梅雨として認められる要素だということがわかりました。雨が降らないからって「梅雨などない!」ということにはならないのだ、という言い訳をされた気分です(笑)
これに対しては練馬区の例でみたように、日照時間も梅雨が特別日照時間が少ないわけではないということをもって反論(?)としたいと思います。
・梅雨とは
さて、2005年にアサヒコムが気象庁・天気相談所の日野修所長へインタビューを行い、「梅雨」とはなんで、どのように発表しているのかを聞いています(GJ)。曰く、「梅雨とは、春から夏に季節が移り変わる時、日本、中国、韓国など東アジアの地域に見られる雨の季節のこと」あるいは、「梅雨は春から夏に移る時期に現れる季節現象で、5日間ほどの移り変わりの期間があると言われているもの」。
「移り変わりの期間」を想定しているということは、やはり、移り変わる前と後では、つまり梅雨前と梅雨中では明確な違いが想定されているということですね。
ちなみに「秋の長雨」について、「9月から10月にかけて、1カ月ほど天気がぐずつく時期があり、これを言っています。ですが、年によって雨の降り方に違いがあり、梅雨の時期ほどはっきりとした気象現象にはならないこともあるようです」と述べています。逆にいえば「梅雨ははっきりした気象現象」ととらえているようです。
たしかに梅雨と認定された時期は、その前後に比べて雨が多いです。そこには「はっきりした」違いがあるように思われます。しかし、一年全体を通してみると、その時期だけが特別雨の多い時期とは思えないことは既に見ました。また「春から夏に季節が移り変わる時期に現れる」としていますが、1981年から2010年の30年間の練馬区の例でみた限り、3月から降水量は増え続けそのピークは9月です。「季節が移り変わる」を春→夏と夏→秋の両方としたとしても、その場合は夏の一定期間は雨が少なくなければこの論理は成り立ちません。
・梅雨入りとは
続いて、何に基づいて発表しているのか、こちらはかなりの有益情報を語っていますので長めに引用します。
――では、具体的にどうなったら「梅雨」と判断しているのでしょう。
前日や当日が「曇りや雨」の天気となり、翌日以降も、週間予報などで「曇りや雨」のぐずついた天気が続くと予想される場合に「梅雨入り」と気象情報で発表しています。
――なるほど。例えば6月10日に「今日が梅雨入りの日」と発表するためには?
理想的には、
(1)当日(6/10)が「曇りや雨の天気」だった
(2)前日(6/9)と前々日(6/8)も「曇りや雨の天気」だった
(3)翌日(6/11)以降も「曇りや雨が続く天気」と予想されている
という三つの条件がそろって、初めて「発表」が行われます。「梅雨明け」の日についても、「曇りや雨が続かず、晴れの日が出てくる天気」を目安に発表しています。
ここではじめて、梅雨入りの判断が明らかになりました。
やはり、曇りが考慮されるので、三日連続曇りで、これからも曇りが続くと思われる場合も「梅雨の発表」へと至ります。気象庁的には必ずしも「雨」である必要はないのです。
しかし、これも練馬区の例でみたように…以下略。
というわけで、「梅雨」は存在しない、創られた概念であることが判明した!
参考)アサヒコム「梅雨って何?」2005年06月12日
http://www.asahi.com/special/june2005/TKY200506100260.html(2011年6月30日)
気象庁 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
▲あとがき
おふざけ話にお付き合いいただきありがとうございます。私の長年の感覚が証明されて万歳です。一つ補足をすれば、本文では梅雨が顕著といわれる九州について触れていません。データをみるとたしかに関東よりは「梅雨」的傾向が強いです。しかし、それでも梅雨入りより前の月の方が梅雨の時期よりも降水量が多い年があるなどあやふやです。(「じめじめ」について調べてないのはご愛嬌)。
それはともかく、今度は「なぜ雨が多い時期として「梅雨」という概念が構築されたのか(あるいは日本に根付いたのか)」そして「その「梅雨」概念はどのように維持されてきたのか」という疑問がうまれてきます。これはこれで探究しがいのあるおもしろい話題です。「五月雨」という語は古今集以後使われるもので、万葉集では使われていません。しかし、「長雨」とアヤメ(5月の花とされている)が一緒に歌われたものは万葉集にもあります。概念の構築を論じるのに、1000年もさかのぼる研究はあまりないのではないでしょうか。笑 ただ、そんなことをする気力も体力も無いのでだれかやってください。
さて、今回のエントリーで私が設定した裏テーマは、構築主義的研究における「中傷効果」と「びっくり効果」です。中傷効果というのは、例えば「梅雨」などない!と“科学的に”説明されると、自分の認識が「誤っていた」ように感じられてしまうものです。梅雨という現象に明確な指標がなく、「他の月と比べて雨が著しく多い」という意味では存在しないとしても、その時期を「雨が多い」と感じ、「じめじめ」してて「いやだなぁ」と感じること自体はなにも「誤って」いません。自身もってください。梅雨はあります。私たちの中に。
今回エントリーではあえて、中傷効果を期待しながら書きましたが(うまくいってるのか!?)、構築主義の研究は中傷効果が伴いやすいです。「Aという概念は構築されたもの」となるべく冷静に書いても中傷効果をもたらしやすいのに、中には政治的アジテーションまがいのことを学術論文で行う人もいます。これと関連して、そうした中傷効果に無自覚な人というのは、自分を特権的な位置にもってきてしまっています。「あんたたちは知らなかったけど実はね」ってなかんじで。(このことは構築主義が知識社会学(イデオロギー分析)とは距離を置こうと決めたときには自覚的だったと思うのですが…。)そういうのはブログに書きましょう(アマチュアならなんでも許される論)!
「びっくり効果」は私がそう呼んでいるだけで、きちんとした名前があるのかもしれませんが、要するに、ある「常識」が実は歴史的に、社会的に構築されてきたものだと示すことで、「ひゃー!そうだったのか!びっくり!」という驚きを与えることです。この「びっくり効果」だけが目的となっている研究がけっこうあったのです(いまもある?)。たしかに「びっくり」したけど、「で?」みたいな研究が。学術研究には意外性とか、新奇性が求められますが、少し意味が違うのでは、と思います。ただし、僕は「びっくり効果」満載のものは嫌いではありません。むしろ好きです。ということで、そういうのはブログに書きましょう!
とまぁ、そんなことも思いながら楽しく書けました。ちゃんちゃん。