おすすめのチェス入門書

 チェスはルールを覚えたら、なにも考えずに家族や友達と気軽にやる分にも十分おもしろいゲームだと思う。ただ、なにを考えるべきか、なにを目指すべきかを知って、盤上の力関係や配置の意味などがわかるともっともっとおもしろくなる。チェスをやるために本を読む人など本当に少数だと思うが、参考になれば幸いである。


小野田博一,1994,『チェス――入門から上達まで』有紀書房.

チェス―入門から上達まで すぐわかる、面白い、強くなる!

チェス―入門から上達まで すぐわかる、面白い、強くなる!

 ルールや駒の動きを理解させつつ、チェスの重要な考え方と基礎力を身につけさせることを狙った入門書。上達してからみると、本の構成はよくできているように思われる。序盤・中盤・終盤までバランスよく書かれているため、本書を読み通すことでチェスの全体の流れ、どこでなにを考えたら良いのかがつかめるようになっている。これは非常に大事なことでその後、チェスをどう上達したらよいのかに役立つ。
 日本はチェス人口が少ないため、チェスの本を出そうと思うと入門書という形で出さざるを得ない。逆に言えば入門書なのにそれ以上の人を想定して書かれているものが多い。この本もある種そういったものの一つだと思う。そのため基本的にはやさしいが、途中ででてくるパズルは全くの初心者には難しいと思う。わからなくても考えながら進めてほしいというのが著者の願いだろうが、私はさっさと答えをみながら一度この本を全部読み通すことをおすすめする。全部読み通すことでチェスの全体像を把握し、その上で本書中のパズルを解いて力をつけるのがよいのではないだろうか。
 小さい本にたくさん図を掲載していて、うれしいのだが、パズルの答えがすぐ横で目に入ってきてしまうのが若干気になる。

Yasser Seirawan,1999, "Winning Chess Openings",Microsoft Pr.

Winning Chess Openings (Winning Chess Series)

Winning Chess Openings (Winning Chess Series)

 彼のEveryman Chessシリーズは個人的におすすめ。入門書としては"Play winning chess"があるがこちらはオープニングに特化している。この本は、ルール説明はないものの、非常に基本的な考え方から丁寧に教えてくれるもので、そこが聞きたかった!というものに答えてくれる。ただし本当の初心者用で、ある程度チェスを行ったことのある人ならわざわざ英語で本書を読むほどではない。
 本書の魅力は、全くチェス本を読んだことがない初心者が考えるであろうところから話がはじまるとこ(ルークやクイーンだけで攻めてみる)と、彼の文体である。私は小野田本の文体が正直肌に合わなかったが、こちらは読んでいて非常に楽しい。彼のさらっとした、明るい口調でどんどんページが進む。
 現在日本でも徐々にチェスの良書が増えてきているので、この本を読まなくてもここに書かれているようなことは簡単に身に着けることができる。英語が苦手な人ががんばって読むような本ではない。ただ、この楽しい文章、つかみ、わかりやすさはどうにも手放しがたい。簡単な英語が難なく読める人で、はじめたばかりの人にはとてもおすすめしたいもの。

A.J.Gillam,1993,"Your First Chess Games", Henry Holt and Co.

Your First Chess Games (Batsford Chess Library)

Your First Chess Games (Batsford Chess Library)

 Seirawanの書と似ていて、完全に初心者に向けて書かれたもの。Seirawanのような魅力的な文体ではないが、文章は簡単だし、本の完成度は高い。初めに基本的なチェスの考え方(4つのルール)を数ページで解説したのち、それを実際の棋譜で実践していく。その4つのルールを守らなかったらいかにひどいめにあうか、を何度も何度も見せられるので、それらのルールを否が応でも覚える(10手以内にメイトされまくる)。
 また「h5(h4)からチェックする」「f7(f2)を攻める」「キャッスリングされてないキングを攻撃する」…といったテーマごとに棋譜が並べられているので、ランダムに「ダメな棋譜」を並べられたものよりもはるかに読みやすいし、何を狙えば良いのかがわかってくる。
 実際に自分より強い人とチェスをすれば同じような失敗をして、学んでいくのだろうが、実践でやるとここまできれいに悪手を咎めてくれるかどうか微妙だし、初心者はあまり自分の棋譜を振り返らないので(私だけ?)、こういう形で体系的に、効率よく勉強したほうがよいと思う。類書だと書いてくれない細かい変化手も書いてくれてるので安心。
 チェスのルールを覚えて、オープニングも暗記はしてきたけど(がゆえに)、考えずに打ってしまいほとんど成長しない人にもおすすめ。良書だと思います。
 (後に紹介するレインフェルド『勝ち方の基本戦術』よりこっちを先に訳せばよかったのに、と思います笑)

アンパサンチェス研究会,2011,『チェスの第1歩』『チェスの第1歩 Part2』

チェスの第1歩 初心者専用トレーニングノート

チェスの第1歩 初心者専用トレーニングノート

  • 作者: アンパサンチェス研究会,辻本二朗,佐伯宏
  • 出版社/メーカー: アンパサンチェス研究会
  • 発売日: 2011/01/01
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チェスの第1歩Part2 (階段式・1手-3手チェックメイト問題集)

チェスの第1歩Part2 (階段式・1手-3手チェックメイト問題集)

  • 作者: アンパサンチェス研究会,佐伯宏
  • 出版社/メーカー: アンパサンチェス研究会
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 私が仮にチェスを誰かに教えるというような機会があるならこれらの本を使うと思う。いわゆるドリルというか、トレーニングノート、問題集といった類のもの。初心者のためによく考えて問題が選ばれているので、しっかりやれば力は絶対つく。A4サイズの薄いノートなので(アメリカの500p越えのペーパーバックと違い)持ち運びやすいし、暇な時にさっとできる。同シリーズは海外の文献の邦訳を含め、第1歩〜第5歩まででていて、未読だがまた一つ日本で良書シリーズがでたな、という感じ。

Yuri Averbakh,1966,"Chess Endings: essential Knowledge",Pergamon Press.(=2010年,水野優訳『チェス――終盤の基礎知識』チェストランス出版.

チェス 終盤の基礎知識

チェス 終盤の基礎知識

  • 作者: ユーリ・アヴェルバッハ,水野優
  • 出版社/メーカー: チェストランス出版
  • 発売日: 2010/10/20
  • メディア: ペーパーバック
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 オープニングや上で紹介したような基本的な盤の読み方と同様、メイトするための基本的な型というものがある。これも技術的なもので、練習すればかならず身に着く。たまにここの知識(技術)が欠けている人を見かけるが、これは致命的である。私はオープニングなんか覚えるより先にこちらを体得すべきだと思っている。必ずしも本で勉強する必要はないが、一応そのための本がでている。これからチェスを始める人には邦訳もあるので便利。(現在は「チェス・クラシックス」シリーズとして改めて出版し直されている)

Irving Chernev,1999,"Logical Chess: Move by Move",Batsford Chess Book.

Logical Chess: Move by Move (Batsford Chess Book)

Logical Chess: Move by Move (Batsford Chess Book)

 
 とても有名な本。どんなに入門書で説明を読んでも、さぁ実践、となるとうまくいかないもの。自分のどの手がよかったのか、悪かったのか、いまいち判断がつかない。クイーンやルークでゴリ押しするのがだめだということはわかった。オープニングの考え方もなんとなくわかった。ではそのあとは?なにしたらいいの?
 こうした疑問があたまに浮かんだ時に、解説付きの他人の実践譜を読みたくなるのは自然な流れだろう。日本語でもたとえばチェス マスター・ブックス シリーズから有田健二の『やさしい実践集』がでているが、やや説明不足で初心者にはよくわからない(と思う)。本書Logical Chessは最初のe4の手に対してすら長い解説が付き、しかも、e4が出てくるたび同じような、しかしちょっとずつかえた解説をするので、もういいかげんなぜその手がよいのかがわかってくる。もちろんミドルゲームに入ってからも解説に手抜きはないので、ふむふむといった感じで読み進めることができる。自分や他人の棋譜の「読み方」を勉強できる。
 本書も英語だが、チェスの手の解説なのでそれほどむずかしい部分があるわけではない。全体は250ページほどだが、一試合につき10ページもないので、苦にならないと思う。初心者のみならず中級者にもためになる良書である。

Paul Van Der Sterren,2009,"Fundamental Chess Openings"Gambit.

FCO - Fundamental Chess Openings

FCO - Fundamental Chess Openings

 いわずとしれたオープニングの辞典(笑)。オープニングの本は数多くあるが、こういう辞典のような本は一冊持っておくと便利。ネットでなんとかいけるとおもっていたが、やはり定石を丁寧に解説してくれるのはありがたい。定石を深く理解しているのとしないのでは、応用力が違う。特にコンピュータではなく、人と戦う時、定石の理解度がものをいう(と私は思う)。
 あくまで総覧のためのものなので、一つ一つのオープニングにそれほど深く追及はしない。気に入ったオープニングは当然それ用の書籍を別途購入するして研究する必要がある。

チェス関連のHP

 優れたウェブ・ページがどんどんうまれています。紹介しだすときりがないので少しだけ。


1.チェスゲーム・ドットコム(http://www.chessgames.com/index.html
 15世紀からの棋譜約70万件を収めたサイト。プレイヤーやオープニングの種類で検索できて大変便利。クリック一つで棋譜を眺められるので、上で紹介した書籍を読みながら使うと非常に効率が良いと思います。いったん勉強した棋譜・オープニングの復習や、チェス本を読んでいてでてくる大量の変化手順を追う際にとても便利です。


2.CHESS OK (http://chessok.com/?page_id=352
 200万近い棋譜をもとに、第一手から打たれる手をパーセンテージで示してくれています。これみれば、自分が打った手に対して相手がどういう動きするのかを研究できるので、次の手を考える際に非常に参考になります。こちらも書籍と合わせて利用すると、例えば「ここでd4がよさそうなのに、なんで説明がないんだろう」といった疑問に対して答えてくれることがあります。


3.水野優「チェストランス」(http://www.geocities.jp/transbowler/
 日本人が管理人のウェブページにも本当に良いものがたくさんあります。が、簡単に検索できるるし、リンクをたどっていけばいろいろ見つけられると思います。水野さんは主にアメリカにおけるチェスの良書を翻訳している方として有名。チェス書の古典の翻訳をHPで公開もしているので、一度見てみると良いかもしれないです。


*おまけ
 チェスの棋譜はPGNやCBVといった形式で保存されます。アプリなどでチェスを行った際に棋譜を保存するとたいていこの形式で保存されます。また、大きな大会の棋譜などもこの形式で配布されることがあります。PGNファイルを開いたり、作成したりするために、Winboard(Windowsの場合)をインストールしておくことをおすすめします。パソコンでチェスを行う際の必須アイテムといってもいいのではないでしょうか。
 また、ChessBase社が出している解析機能付きのチェスのソフトChessBaseのフリー版もありますので(ChessBase Light)こちらもインストールしておくとよいと思います(ChessBaseのHPではChessBase Readerという読み取りソフトも無料配布しています)。チェスの書籍はCBVの形式で発売されることもあり、紙よりもはるかに見やすい(棋譜を追いやすい)ことが多いので、おすすめです。


・Winboard について http://www.gnu.org/software/xboard/
 (XboardはUnix用のものです)
・ChessBaseのソフトダウンロードページ http://www.chessbase.com/download/index.asp
 (現在最新のフリーソフトChessBase Light 2009です)



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▲おすすめ度のさがる本

渡井美代子・松本康司,2003,『最新 図解チェス 必勝の手筋―駒の使い方から世界チャンピオンの妙手まで』日東書院.

最新 図解チェス 必勝の手筋―駒の使い方から世界チャンピオンの妙手まで

最新 図解チェス 必勝の手筋―駒の使い方から世界チャンピオンの妙手まで

 上で述べたように日本のチェス本は入門書の体裁をとっていても、中級者のための情報を盛り込んでいたりする。この本もその一つ。ルール説明から歩数、盤隅・盤端・盤央でのメイトの仕方など丁寧に説明する一方で、本書で説明していない用語で実践譜を説明している。したがって本書は読み通す本というよりは、必要な部分を必要な時に読むという形で活用するのがよいと思われる。初心者はChapter1,2,4,7あたりだけで十分。とはいえ残りの部分もエチュード・プロブレムの説明や、フィッシャーのパートナーである渡井さんによるフィッシャーの説明などなかなかおもしろい。
 実践譜もあるが、解説はない。小野田本と違い中盤・終盤についての丁寧な説明はないし、オープニングの説明もそれほど上手とは思えない。それなりにオリジナルな情報もあるのでおもしろい部分もあるが、入門書としてはすすめない。

フレッド・レインフェルド(中川笑子訳),2010,『新装版 勝ち方の基本戦術』河出書房新社

勝ち方の基本戦術 (チェスマスターブックス)

勝ち方の基本戦術 (チェスマスターブックス)

 先にSeirawanのOpeningで、ルークやクイーンでゴリ押しの攻撃がなぜだめになるのかが解説されている、と述べた。本書は、その先、多少入門書とかを読みかじって、センターを支配すりゃいいんでしょ?くらいは知ってるけどやっぱり初心者、という程度の実力の人たちの実際に打った棋譜を解説していくもの(後半はもう少し上手な人がでてくる)。全部で10局を解説している。
 いつもいつも良い局の棋譜ばかりを読むのではなくて、だめな棋譜を読むことは非常にためになる。なぜこれがだめだったのか、を考えながら解説してくれるからだ。初心者向けだが、ルールを覚えたての人ではなく、多少どのように打ったらよいのかをわかってる人が読むと良い。こういう打ち方をしないようなる、ことが目標といえる。そのためには、なぜだめなのかを瞬時に理解できるようにならなければならない。
 訳者による豊富な参考図によって原書よりも読みやすいものになっているが、解説が説明不足な箇所が多く、あまり親切とは言えない。また、悪手のたびに解説をしてくれるが、具体的すぎてより大きな方針を身に着けることができない。このタイプの本が日本語から出ている点は評価するが、中学英語がなんなく読めるなら"Your First Chess Games"をすすめる。