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「古事記」を読む

 712年に成立したといわれる現存の日本最古の書物古事記」。口承されてきた神話・伝説(旧辞)と、天皇家の系譜(帝紀)を成文化したもので、序文の漢文体と本文の変体漢文体(日本独自の語彙・語法を含む漢文)、歌謡の和文体で書かれています。が、そんなもの読めないので、武田祐吉訳(1956)を軸に読みます。気分によって倉野憲司版の原文(1963)も引用してます。
 「『創世記』を読む」と同じように、疑問、感想などをつらつら書く感じで。鈴木三重吉(1955)の『古事記物語』はかなり読みやすく書かれていますので、ストーリーを読みたい人はこちらをおすすめします。省略などもあるので注意が必要ですが。


古事記物語

古事記物語

■序文
▲第一段
:現在に至る過去のことを知ることができること、そしてそれを知る意義を説いている

・創造主なるものはおらず、勝手に世界ができ、天地が分離する。
・名前がない、と名前に注目してるところが興味深い。

「混元既凝。氣象未效。無名無爲。誰知其形。然乾坤初分。」
「宇宙のはじめに當つては、すべてのはじめの物がまずできましたが、その氣性はまだ十分でございませんでしたので、名まえもなく動きもなく、誰もその形を知るものはございません。それからして天と地とがはじめて別になつて…」

・男女の区別の成立が述べられてる
「アメノミナカヌシの神、タカミムスビの神、カムムスビの神が、すべてを作り出す最初の神となり、そこで男女の兩性がはつきりして、イザナギの神、イザナミの神が、萬物を生み出す親となりました。」

・過去を参照してよりより政治を行った指導者
「雖歩驟各異。文質不同。莫不稽古以繩風猷於既頽。照今以補典教於欲絶。」
「それぞれ保守的であると進歩的であるとの相違があり、華やかなのと質素なのとの違いはありますけれども、いつの時代にあつても、古いことをしらべて、現代を指導し、これによつて衰えた道徳を正し、絶えようとする徳教を補強しないということはありませんでした。」 

▲第二段
天武天皇を権威づけるエピソードと、古事記の作成を命じたところ。


・「強さ」「道徳」「知識」「人びとの指導」を用いて権威付け。
「赤い旗のもとに武器を光らせて敵兵は瓦のように破れました。」
「その道徳は黄帝以上であり、周の文王よりもまさつていました。」
「貴い道理を用意して世間の人々を指導し」
「知識の海はひろびろとして古代の事を深くお探りになり」

天武天皇は、国家運営のために「正しい」神話と天皇家の記録を残す必要があると述べた
「「わたしが聞いていることは、諸家で持ち傳えている帝紀と本辭とが、既に眞實と違い多くの僞りを加えているということだ。今の時代においてその間違いを正さなかつたら、幾年もたたないうちに、その本旨が無くなるだろう。これは國家組織の要素であり、天皇の指導の基本である。そこで帝紀を記し定め、本辭をしらべて後世に傳えようと思う」」

稗田阿礼は27歳
「稗田の阿禮という奉仕の人がありました。年は二十八でしたが、人がらが賢く、目で見たものは口で讀み傳え、耳で聞いたものはよく記憶しました。」


▲第三段
元明天皇の権威づけと、古事記の完成

・「道徳」「人びとの指導」で権威付け。
 エピソードよりも文学的な比喩が目立つ

天地人の萬物に通じて人民を正しくお育てになります」
「太陽は中天に昇つて光を増し、雲は散つて晴れわたります。」
「二つの枝が一つになり、一本の莖から二本の穗が出るようなめでたいしるしは、書記が書く手を休めません」
「お名まえは夏の禹王よりも高く聞え御徳は殷の湯王よりもまさつているというべきであります。」


・文字の無い時代の話し言葉を、文字化することの困難を語る。興味深い
「言葉も内容も共に素朴でありまして、文章に作り、句を組織しようと致しましても、文字に書き現わすことが困難であります。文字を訓で讀むように書けば、その言葉が思いつきませんでしようし、そうかと言つて字音で讀むように書けばたいへん長くなります。そこで今、一句の中に音讀訓讀の文字を交えて使い、時によつては一つの事を記すのに全く訓讀の文字ばかりで書きもしました。言葉やわけのわかりにくいのは註を加えてはつきりさせ、意味のとり易いのは別に註を加えません。」


■1.イザナギの命とイザナミの命
:天地、神々、島々の出現

▲天地・神の出現
・最初の五神は出現はするがすぐ隠れて(=死ぬ?)しまい何をしたのか不明。
・それぞれ一人で突然「出現」する。
・この五神は「特別の天の神樣」
 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
 高御産巣日神(たかみむすびのかみ)
 神産巣日神(かみむすびのかみ)
 宇摩志阿斯訶備比古遲神(うましあしかびひこぢ)
 天之常立神(あめのとこたち)

・それ以下「出現」する神代七代の神々は、クニノトコタチの神とトヨクモノの神を除き、神と女神のセット。イザナギイザナミ以外についてはやはりなにをしたのかわからない。
 ウヒヂニの神、スヒヂニの女神
 ツノグヒの神、イクグヒの女神
 オホトノヂの神、オホトノベの女神
 オモダルの神、アヤカシコネの女神
 イザナギの神、イザナミの女神


▲島の生成
イザナギイザナミは「水に浮いた脂」のような「ふわふわ漂つている」国を、天からの階段から矛でかき混ぜ、引きあげたときに滴る海水が積み重なって島となる。このオノゴロ島に降りて、柱と御殿を建てる。

・シュールな性交表現。柱を廻る。これで「島」を生む。
「そこでイザナギの命が、イザナミの女神に「あなたのからだは、どんなふうにできていますか」と、お尋ねになりましたので、「わたくしのからだは、できあがつて、でききらない所が一か所あります」とお答えになりました。そこでイザナギの命の仰せられるには「わたしのからだは、できあがつて、でき過ぎた所が一か所ある。だからわたしのでき過ぎた所をあなたのでききらない所にさして國を生み出そうと思うがどうだろう」と仰せられたので、イザナミの命が「それがいいでしよう」とお答えになりました。そこでイザナギの命が「そんならわたしとあなたが、この太い柱をりあつて、結婚をしよう」と仰せられてこのように約束して仰せられるには「あなたは右からおりなさい。わたしは左からつてあいましよう」と約束しておりになる…」

・女性蔑視?ともとれるが、同時に女性が先に喋るという女性の積極性も見られる。
 女性が先に「ほんとうにりつぱな青年ですね」と言ったことが悪かったらしく、生まれた「水蛭子」と「淡島」は御子の数にいれられない。

・やりなおせばOKで、「淡路のホノサワケの島」、「伊豫の二名の島(四國)」、「隱岐の三子の島」、「筑紫の島(九州)」、「壹岐の島」、「對馬」、「佐渡の島」、そして「大倭豐秋津島(おおやまととよあきつしま)=(本州)」を生み、「大八島國」と呼ばれる。ただしその後「吉備の兒島」、「小豆島」、「大島」、「女島」、「チカの島」、「兩兒の島」の六島を生む。

「そういうわけで、また降つておいでになつて、またあの柱を前のようにおりになりました。今度はイザナギの命がまず「ほんとうに美しいお孃さんですね」とおつしやつて、後にイザナミの命が「ほんとうにりつぱな青年ですね」と仰せられました。」


▲神の生成
イザナギイザナミは島を生んでから「神」を生む
 十神→八神→四神→八神→八神


・へどや小便から生まれた神がいる
 八神のホノカガ彦の神(ホノカグツチの神)を生んだ時イザナミは病気となり、嘔吐でできた神(カナヤマ彦の神、カナヤマ姫の神)、屎(くそ)でできた神(ハニヤス彦の神、ハニヤス姫の神)、小便でできた神(ミツハノメの神、ワクムスビの神)、この神の子のトヨウケ姫の神。


・38神のはずなのに35神?
 十神→八神→四神→八神→八神 =38では? 
 もし
イザナギイザナミのお二方の神が、共にお生みになつた島の數は十四、神は三十五神であります。これはイザナミの神がまだお隱れになりませんでした前にお生みになりました。」 


イザナギの行為から次々に神が生まれる。怒って殺した神の身体から神が生まれるって不思議。
 −イザナミを亡くして悲しむ涙 →泣澤女の神(なきわめのかみ)
 −カグツチを斬った時に劒についた血が巖について生まれる
  劒の先の血が     →イハサクの神、ネサクの神、イハヅツノヲの神
  劒のもとの方の血   →ミカハヤビの神、ヒハヤビの神、タケミカヅチノヲの神
  劒の柄に集まる血   →クラオカミの神、クラミツハの神
  *その劒は「アメノヲハバリ」(イツノヲハバリ)という

 −殺されたカグツチの神の身体から生まれる
  頭 →マサカヤマツミの神
  胸 →オトヤマツミの神
  腹 →オクヤマツミの神
  御陰→クラヤマツミの神
  左手→シギヤマツミの神
  右手→ハヤマツミの神
  左足→ハラヤマツミの神
  右足→トヤマツミの神


▲黄泉の国
 イザナギが黄泉の国にイザナミを救いに行く。イザナギは、見てはいけないと言われたのに、待ち切れずイザナミの姿を見る、その姿に驚いたイザナギは逃げ出す。イザナミは「辱をお見せになつた」として、魔女、雷、魔軍を遣わし、最後には自ら追いかける。イザナギは大きな石で黄泉比良坂をふさいで逃げることに成功する。

・鶴の恩返し的な「見てはいけない」「見てしまう」パターン
・黄泉の国が「汚れた」世界だということを認識させる描写
・「恥」をかかせたことにいかるイザナミ
・助けるために来てくれた夫を本気で追いかけるイザナミ
・追ってに対して、ブドウ、タケノコで時間稼ぎをする。
 突然現れたブドウやタケノコを食べるのが奇妙
・桃が特別な力をもつ?
 桃をうつとみんな逃げる。→人間たちも守ってくれるようオホカムヅミの命という名前を与える
・人口調整(少子化なら…イザナギに頑張ってもらわないと)
「離別の言葉を交した時に、イザナミの命が仰せられるには、「あなたがこんなことをなされるなら、わたしはあなたの國の人間を一日に千人も殺してしまいます」といわれました。そこでイザナギの命は「あんたがそうなされるなら、わたしは一日に千五百も産屋を立てて見せる」と仰せられました。こういう次第で一日にかならず千人死に、一日にかならず千五百人生まれるのです。」


▲身禊
 黄泉の国のけがれを落とすために川でみそぎを行う。身につけてあったものを投げ捨てる度に神が出現し、けがれからも神が出現し、水で身体を洗うたびに神が出現する。水底、海中、水面で洗った時に出現した神のうち、ソコヅツノヲの命・ナカヅツノヲの命・ウハヅツノヲの命は住吉神社の三座の神樣。また、左の目を洗った時に天照らす大神が出現し、右の目を洗った時に月讀命、鼻を洗った時にタケハヤスサノヲの命が出現した。イザナギは三神を気に入り、天照大神には首にかけていた玉の緒(ミクラタナ)を渡して天をおさめるよう、月讀には夜を、スサノヲには海上をおさめるよういった。ただし、スサノヲは土地を治めず泣きわめき、黄泉の国へ行きたいと言ったので追い出されてしまう。
 *イザナギは、淡路の多賀の社にまつられている

・スサノヲはイザナギの鼻からうまれたのに、「母」としてイザナミをあげている。


■2.天照らす大神とスサノヲの命

▲誓約
 国を負われたスサノヲは天に向かうが、天照大神は警戒し、戦闘の準備をする。スサノヲは穢い心がないことを示すために、「誓約を立てて子を生む」ことを提案する。スサノヲの長い劒を天照が三段に打ち折つて神を出現させ、天照が身に着けていた、勾玉の澤山ついている玉の緒や、珠を囓(か)んで捨てて神を出現させた。

・誓約の形が不思議。お互いのもつものを壊すことが誓約? 噛む意味は?
 生まれた子が女だったから清らかであることが証明された?
「そこでスサノヲの命は、天照らす大神に申されるには「わたくしの心が清らかだつたので、わたくしの生んだ子が女だつたのです。これに依つて言えば當然わたくしが勝つたのです」

▲天の岩戸
 誓約に「勝って」(?)乱暴をはたらくスサノヲの行為を天照は当初好意的に受け止めるが、神の衣服を織っている時にまで乱暴し、機織女が驚いて死んだため、これを嫌った天照は天の岩屋戸(あめのいわやと)に隠れた。世界がくらくなり、あらゆる妖(わざわい)が起こったため、多くの神が集まって考えをだした。鏡や珠を作り、祝詞を唱え、楽しげに笑うと、怪しんだ天照が岩戸から顔をしたため、タヂカラヲが手を取つて引き出した。スサノヲには多くの品物を出させて罪を償わせ、また鬚と手足の爪とを切つて追い払った。

・天照が怒ってスサノヲと闘うのではなく隠れてしまうのはなぜか
・天照が外の様子を気にする描写がかわいい
「わたしが隱れているので天の世界は自然に闇く、下の世界も皆闇いでしようと思うのに、どうしてアメノウズメは舞い遊び、また多くの神は笑つているのですか」
・鬚と手足の爪を切るとはどういう意味なのか


■3.スサノヲの命

穀物の種
 天の世界から追われたスサノヲに頼まれてオホゲツ姫は料理を与えるが、鼻や口や尻からだすのをみて穢いと思ったスサノヲはオホゲツ姫を殺す。オホゲツ姫の頭から蠶、目から稻種、耳からアワ、鼻からアズキ、股の間からムギ、尻からマメができた。

・鼻や尻からだすのが穢いという感覚はあったとすると、なぜオホゲツ姫は平気でそこから料理を出す神として描かれるのだろうか
穀物などの起源が、スサノヲの物語を進める中で語られるが、神が生まれる時のように、神の身体から生まれるのがおもしろい。


▲八俣の大蛇
 出雲の国の肥の河上、トリカミにたどりついたスサノヲはそこで、八俣の大蛇に困っている老翁アシナヅチと老女テナヅチの神をみつける。その娘、クシナダ姫を嫁にもらう代わりに、八俣の大蛇を退治した。退治した際に見つかった剣、草薙の剣は天照らす大神に献上し、スサノヲは妻とともにそこに宮殿をつくり住みかとした。


・スサノヲはクシナダ姫をクシに変える。
「依つてスサノヲの命はその孃子を櫛の形に變えて御髮にお刺しになり…」
乱暴な神が出雲では功績のある神とされる由来


▲系譜
 スサノヲがクシナダ姫と婚姻して産んだ神がヤシマジヌミの神。出雲の国の神オホヤマツミの娘、カムオホチ姫と結婚をして生んだ子がオホトシの神、ウカノミタマ。ヤシマジヌミの神は花散る姫と結婚しフハノモヂクヌスヌの神を生み、
この神はフカブチノミヅヤレハナの神を生み、この神がオミヅヌの神を生み、この神がアメノフユギヌの神を生み、この神がサシクニワカ姫と結婚して生んだ子が大國主の神。


■4.大國主の命

▲兎と鰐
 隱岐の島にいたウサギは出雲の国に来ようとと思い、ワニをだまして並べさせ、その上を踏んで渡ろうとした。しかし、最後のワニがウサギを捕まえ着物を剥いだ。出雲についたものの困っていたウサギに対して、大國主の命の兄弟たちは海水を浴びて、風にあたれというので、ウサギは従うが痛んで泣いていた。大國主の命はその話を聴いて、水で洗い、蒲の花粉をまとうようアドバイスをした。ウサギがそのようにすると本当に元に戻り、ヤガミ姫と結婚できるのは大國主の命だと言った。

・ウサギはそもそもワニをだまそうとしてるのだから自業自得、とならないのが不思議。
・大國主の命の兄弟たちはなぜそんなにいじわるなのか
・ウサギがヤガミ姫と結婚できるのは大國主の命だ、と予言めいたことをいうのは単なる感謝の気持ちの表れなのか、不遜なのか、予言者なのか。


▲赤貝姫と蛤貝姫
 ウサギの言った通りヤガミ姫が大國主の命と結婚するというので、兄弟たちは大國主の命をだまして殺してしまう。悲しんだ母は、天のカムムスビの神に頼んだところ、赤貝姫と蛤貝姫がつかわされ、大國主の命は生き還った。

・これくらい迅速だったならイザナミも生き返れたのかな


▲根の堅州國
 生き返った大國主の命を見て、再び大勢の神々が大國主の命を殺してしまう。再度母が生き返らせると、二度と殺されないように紀伊の國のオホヤ彦の神のもとへ逃がした。


・二度めの復活はどのようになされたのかよくわからない
「そこでまた母の神が泣きながら搜したので、見つけ出してその木を拆いて取り出して生かして…」