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少年犯罪/少年の犯罪被害 基礎資料

 少年犯罪は増加・凶悪化していない、という事実は既に広く知られていると信じますが、聞いたことがあってもデータへのアクセスが困難な人もいるかもしれない。そう思い、ここに関連するデータを羅列しました。また統計データを読む際の注意点も広田(2001)にならって付しておきましたのでご参照ください。

*グラフはクリックすると別窓で開きます。

■少年犯罪/少年の犯罪被害 基本用語

*『警察白書』の定義

少年 20歳未満の男女
犯罪少年 犯罪行為をした14歳以上20歳未満の者
触法少年 刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者
虞犯少年 刑罰法令に該当しない虞犯事由があって、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者
包括罪種 刑法犯を以下の六種に分類したもの
凶悪犯 殺人・強盗・放火・強姦
粗暴犯 暴行・傷害・脅迫・恐喝・凶器準備集合
窃盗犯 窃盗
知能犯 詐欺・横領(占有離脱物横領を除く)・偽造・汚職・背任など
風俗犯 賭博・わいせつ
その他 公務執行妨害・住居侵入・逮捕監禁・器物損壊など

*『犯罪白書

少年 20歳未満の男女
少年非行 14歳以上の少年による犯罪行為
触法少年 刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の少年
年少少年 14歳以上16歳未満の者
中間少年 16歳以上18歳未満の者
年長少年 18歳以上20歳未満の者

■少年による犯罪

 基準点をどこに置くかによって増減は変わるが、戦後という広い視野でみると、少年による凶悪犯、粗暴犯は減少している(強盗については「統計データを読むときの注意」で触れる)。凶悪犯・粗暴犯は戦後すぐから60年代までが、まんびき・窃盗は80年代がピークで、それ以降、波はありつつも少年犯罪は減少している。人口の減少を考慮しても増加はしていない。
 また戦前にも、現在なら「異常」「狂気」と表現されるような少年犯罪は起きていた。量的な比較をすることは困難であるが、近年起きた衝撃的な事件と同じような、あるいはより衝撃的な事件は過去にも起きているため、それをもって近年特有の少年犯罪と認めることはできないことがわかる。
*検挙数の場合、検挙率と複数の犯人による一つの犯罪が見えにくい点に注意


▲全ての少年犯罪
・刑法犯少年の検挙人員・人口比の推移 1949(昭和24)〜2009(平成21年)


警察白書より
*人口比は、同年齢層の人口1,000人当たりの検挙人員
*検挙人員なので、検挙率の変動に影響をうける可能性がある


・罪種別刑法犯少年検挙人員 :5年区切り 1955(昭和30年)〜2010(平成22年)

*1955〜1970年は「犯罪白書」より。(風俗犯に賭博が含まれない)
 1975〜2010は「警察白書」統計資料より
*「その他」の大部分は放置自転車などの占有離脱物横領


・少年人口(15−19歳) 1949(昭和24)〜2009(平成21年)

統計局「人口推計」資料No.76及び、各年の推計


▲殺人・強盗
・少年による殺人・強盗 検挙人員の推移(年齢層別) 1954(昭和29年)〜2008(平成20年)

法務省「平成21年版 犯罪白書」より転載


・未成年の殺人犯検挙人数と少年人口(10〜19歳)10万人当りの比率 1936(昭和11)〜2006(平成18年)

少年犯罪データベースより転載

警察庁「犯罪統計書」による
比率の昭和21〜平12年は「犯罪白書」による。それ以外は総務省統計局サイトの各年の10月1日現在年齡別推計人口確定値を元に独自に算出したもの。
昭和20〜47年5.14の沖縄の事件と人口を含まない。

昭和16〜18年の年齢別人口推計は当時も現在も存在しないため、その期間は直線的に少年人口が増加したと仮定して試算した。

昭和20〜23年の犯罪統計は不正確らしい。


▲万引きのみ
未成年の万引き犯検挙人数と比率(少年人口(10〜19歳)1000人当りの比率) 1979(昭和54)〜2010(平成22)


*「少年犯罪データベース 万引き」および警察庁「平成22年の犯罪情勢」より。


▲2000年以降 種類別少年犯罪
・刑法犯少年の包括罪種別検挙人員の推移 2000(平成12)〜2009(平成21年)

警察白書より
*検挙人員なので、検挙率の変動に影響をうける可能性がある


▲犯罪の質 ――「異常」な犯罪――
 「少年犯罪データベース」では戦前からの様々な少年犯罪についての記述が集められているが、それを見ると「異常な」「凶悪な」「脱社会的な」「理解しがたい」少年犯罪は戦前から存在していたことが分かる。

・1927.6.17 小4女子が授業中に同級生女子殺害
・1934.3.15 「幾人くらい殺せるだろうか」試すため20歳の男が一家を皆殺し
・1936.4.16 18歳男が女性80人襲い1人刺殺
・1937.6.15 15歳少年、「ちょっと刺してみたいような気」から女性を58カ所めった切りにして殺害
・1938.5.13 6歳女子が隣家の2歳の女の子の顔を棍棒で滅多打ちにして殺害
・1948.3.20 14歳少年、完全犯罪の実験のため知り合いの女の子二歳を殺害
・1949.6.10 14歳女子が子守を任された幼児を計2人殺害、別の幼児を殺害するために放火。
・1955.3.6  17歳女子が弟を毒殺
・1958.1.26 16才の少年が「人を刺して見たい」という衝動にかられ就寝中の女性を刺殺
・1968.2.20 中学3年生が叔母の長男を絞殺し、叔母をレイプ。
・1968.5.6  高1が授業中に高2を呼び出し刺殺
・1977.10.13 2歳の長女、泣き声を上げる生後2ヶ月の妹の顔をカミソリで切り裂いて殺害
・1978.10.28 小6が小1年生にバカと言われた仕返しに高台から突き落として殺害
・1983.4.21 高1が小1に自転車を蹴られ「カッとして」尖った金ぐしで頭を刺し殺害
・1985.2.23 高校2年生が中学の時自転車を壊されたことの復讐で同級生を刺殺。

■少年の犯罪被害

 少年が昔より犯罪にまきこまれやすくなったという「物騒な世の中化」という言説もまたよく聞かれる。これについてはどうだろうか。犯罪被害の多くは窃盗であり、被害者の約7割が高校生以上であるが、窃盗被害および高校生以上の被害は年々減少している。高校生以上の犯罪被害は2001年と比べると2010年には4割減っている。
 小学生以下についても、殺人被害は70年代半ばをピークに減り続けており、暴行・傷害・強制/公然わいせつなどの犯罪も2000年以降のデータを見る限り、2003、2004年をピークに減少傾向をみせている。ただし、暴行・傷害に関しては98・99年よりも以前高い数字を示している。
 ちなみに、2000年代で少年の強制・公然わいせつ被害の最も多かった2003年(平成15年 2166件)の小学生以下の人口は約1425万人であり、10万人に15人の割合で小学生以下の少年が強制・公然わいせつの被害をうけたことになる。また、成人を含む殺人被害は、多くが知人・親族であることが知られている。
 より古いデータについては宿題としたい。
*認知件数の場合、同一犯による複数回の犯罪やグループ犯による犯罪が数字に現れてこない点に注意



▲少年の刑法犯被害全体  2001(平成13年)〜2010(平成22年)
・罪種別

警察庁生活安全局少年課「少年非行等の概況(H22)」より


・学職別

警察庁生活安全局少年課「少年非行等の概況(H22)」より


▲小学生・未就学の子どもの被害  
・罪種別
13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移  1998(平成10年)〜2009(21年)

警察白書より。


・殺人被害  1972(昭和47)〜2007(平成19)

*管賀 江留郎氏のHPより転載
(上記ホームページのデータは無断使用が自由だそうです。著書でも重要な資料が紹介されています)

警察庁「犯罪統計書」による。事件発生の認知数のため検挙率の変動とは関係ない。


▲小中高校生
少年の刑法犯被害認知件数の推移  2001(平成12年)〜2010(22年)

警察庁のデータを用いて『平成23年版子ども・若者白書』で用いられた図を転載


▲被疑者と被害者との関係(成人含む)

*「平成22年版 犯罪白書

■統計データを読むときの注意

 広田照幸、2001、「<青少年の凶悪化>言説の再検討」『教育言説の歴史社会学名古屋大学出版会

1.取締り方針の変化
 検挙人員の実数の増減は、警察の取締り方針とセットで考察しなければならない。
 警察活動の活発化によって、表面化する非行の数は増加しうるのである。
 例)80年代初頭の粗暴犯急増は、70年代後半からの校内暴力に対する学校の対応が変化し、多くの中学校が警察へ通報するようになったためである。(粗暴犯の年齢別検挙人数をみると、14.15歳のみが急増している)
 例)97年以降の強盗犯の急増は、警察の方針変更により少年犯罪の罪状がより重く科せられるようになったためである。(「強盗」で増加しているのは「強盗致傷」のみで「強盗致死」や「強盗強姦」は増加していない。また、「強盗」で鑑別所に入所した少年の多くが、恐喝、けんか、ひったくりの延長であったと認識している(川崎道子、1997、「増加する少年の強盗事件について」)。これらが「暴行」「恐喝」ではなく「強盗」に分類されるようになった、とみることができる。)


2.比率の恣意性
 検挙人員に占める少年の比率の変化は、実数の変化とセットで考察しなければならない。
 青少年の犯罪が減少していても、それ以上に成人の犯罪が減少すると、結果として青少年の犯罪比率が増加する。
 例)1962年の粗暴犯検挙者に占める少年の比率は28%だったのが、1997年には44.5%になっている。しかし、実数は62年の6割減であり、成人が8割減のためにその比率が増加しているのである。
 例)「凶悪犯罪の低年齢化」も、10代後半の少年たちの凶悪犯罪の件数が減ったために、より低年齢の少年の占める割合が結果的に高くなっていることから説明できる。


3.部分的カテゴリー・部分的傾向の強調
 すべての罪種、期間、集団との関係で考察しなければならない。
 特定の罪種、期間、集団の増加にのみ注目することで、少年犯罪全体が増加しているような印象を与える。
 例)1999年、「中学校の校内暴力が急増、過去五年で最多」とされたが、1.校内暴力は通報するかしないかは学校側の意向に左右されるため実態を反映しているか不明。2.過去五年は最も校内暴力が少なかった時期であり、それ以前と比べればはるかに少ない数字である(1983年2125件→1999年560件)。3.高校では事件数、検挙者数、被害者数いずれも前年を大きく下回っているため一括りに「若者」の問題として論じることはできない。
 例)1970年代少年犯罪検挙者数が増加したことをうけ、赤塚行雄は1978年『恐るべき子供たち』を著し、少年犯罪の悪化を憂いたが、70年代検挙者数増加はその多くが万引き、自動車泥棒であり、凶悪犯罪は大幅に減少していた。1978年は凶悪犯・粗暴犯の最も減少した時期であった。

 注意:警察庁の統計データの集計の仕方は1972年から大きく変更されたため、警察庁が統計を取り始めて最多」という時、凶悪犯罪の最も多かった60年代のデータが含まれていないことがある。


4.「死に至らしめる事件を起こした少年」
 既存のカテゴリーを組み合わせて考察する場合は注意が必要である。
 増加しているカテゴリーと組み合わせることで、減少している特定の少年犯罪も増加しているような印象を与える。
 例)「殺人」に「強盗殺人」と「傷害致死」で検挙された数字を加えると、「死に至らしめる事件を起こした少年」は増加しているように見える。しかし1.この組み合わせは1972年からの統計データしか用いることができないため、60年代の数字が考慮されない。60年代の「殺人」の数字だけでも、現在の三つの合計よりも多い。2.主に増加しているのは「殺す」という意志の無い「傷害致死」である。3.被害者の増加がみられないため、数字の増加は、多人数による「傷害致死」事件の犯行の増加によるものと考えられる。

■参考文献

 この問題については、研究書、一般書、HPその他で繰り返し論じられている。

鮎川潤,1994,『少年非行の社会学世界思想社
・―――,2001,『少年犯罪―−ほんとうに多発化・凶悪化しているのか』平凡社
・岡邊健・小林寿一,2005,「近年の粗暴的非行の再検討――「いきなり型」・「普通の子」をどうみるか」『犯罪社会学研究』(30)102-18.
土井隆義,2003,『<少年非行>の消滅――個性神話と少年犯罪』信山社
広田照幸,2000,『教育言説の歴史社会学名古屋大学出版会.
・加藤幸雄・日江井幸治他、1989、「戦後の非行を考える――朝日新聞社説を手掛かりにして
  ――」『福祉研究』59号.
・加藤幸雄,1990,「朝日新聞社説にみる戦後日本の非行問題」『研究紀要』(83).
河合幹雄,2004,『安全神話崩壊のパラドックス岩波書店
・管賀江留郎,2007,『戦前の少年犯罪』 築地書館
・北澤毅編,2007,『リーディングス日本の教育と社会 第9巻 非行・少年犯罪』日本図書セ
  ンター.
長谷川寿一長谷川眞理子,2000,「戦後日本の殺人の動向」『科学』第70巻第7号.
浜井浩一芹沢一也,2006,『犯罪不安社会』光文社.
大村英昭,1989,『新版 非行の社会学世界思想社
パオロ・マッツァリーノ,2004,『反社会学講座イースト・プレス
芹沢一也,2007,『ホラーハウス社会――法を犯した「少年」と「異常者」たち』講談社
・東京第一弁護士会少年法委員会編,1998,『Q&A少年非行と少年法明石書店
・徳岡秀雄,1992,「青少年問題と教育病理」『教育社会学研究』第50集.

・「少年犯罪データベース」http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm
・「少年犯罪は急増しているか」http://kogoroy.tripod.com/hanzai.html
・「少年犯罪は急増しているか(平成19年度版)」http://kogoroy.tripod.com/hanzai-h19.html

非行少年の消滅―個性神話と少年犯罪

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教育言説の歴史社会学

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