「若者の内向き志向」について2 〜若者の海外旅行離れ?〜

***注意*****************************
・最新のデータを追加して新しく記事を書きました(2012年12月15日)。
・リンクは別窓で開きます
・まとめが最後にあります。
・この記事は2010年10月12日(12月27日追記)に別の場所で書いたものです。
   前回の記事とは別の記事だったため、テンションに差がありますがご容赦ください。
・更新履歴 2011年04月19日:リード文作成、文章の微調整
・更新履歴 2011年07月15日:全面改訂
・更新履歴 2011年08月13日:文章微調整
・更新履歴 2012年10月22日:40代出国者数減少への言及を加えました
**********************************


――「若者の内向き志向」を検証――
②若者は海外旅行しなくなったのか。


 近年、「若者の内向き志向」というよく言われますが、これは本当なのか。無理のない範囲で検証していこう、というのが目的の記事です。ネット上には同じような趣旨のブログ記事やその他の文章が多くありますが、感情論であったり、断片的な情報あるいはソースのない情報をもってくるので、余計混乱してしまいます。ということで、ここでは、「若者の内向き志向」化が事実かどうかを、誰でもアクセス可能かつある程度信頼性のある情報のみを用いて、検証したいと思っています。
 前回は、「若者の内向き志向」と言われる際に言及される、「若者が留学しなくなった」ということが事実なのかどうを検証しました。その結果、留学者数を20代の人口で割った「若者の留学者率」はほとんど減っていないことや、留学を希望している若者が多くいるということがわかりました(アンケート調査では過半数)。
 今回は、「若者の海外旅行」という観点から「内向き志向」を検証してきます。


 まずは二つの記事から。



若者の海外旅行離れ「深刻」 「お金ないから」に「休み取れない」


法務省出入国管理統計によると、2007年の海外旅行者(出国者数)は前年比1.4%減の1730万人。03年以来、4年ぶりに減少に転じた。しかし、旅行業界でもっと深刻に受け止めているのが若者の「海外旅行離れ」。同統計によると、20〜29歳の海外旅行者数は1996年の463万人から、2006年には298万人にまで減少。10年間で35%近い「激減」で、若者の「海外離れ」が深刻になっているのである。(2008/4/30)
Jcastニュースより


若者が旅行に行かない!?

世界的な大交流時代を迎えるなか、日本の若者の旅行離れが進んでいる――。


法務省のデータを基にした出国率を2000年と2006年で比較すると、20─24歳の男性は12・4%から11・5%に、女性は27・4%から22・5%に、7年間で大きく減少している。25─29歳では、男性は20・1%から17・3%に、女性は31・5%から25・0%に減少。さらに、30─34歳では男性が23・8%から21・0%に、女性は21・3%から19・3%といずれも減少している。とくに女性の減少幅が大きい。(2007/10/09)

メディアサボールより 旅行新聞新社 旬刊旅行新聞 編集長 増田氏の記事


 それぞれの記事は、若者の海外旅行離れを主張しているという点は同じですが、根拠は若干異なります。前者(仮に記事A)は、若者の出国者数の全体量が減っていることをもって、後者(仮に記事B)は出国者率(若者の出国者数/若者の人口)の減少をもって、若者の海外旅行離れを主張しています。


▲若者の出国者数でみる、「海外旅行離れ」まずは、記事Aの論点について、グラフを見ながら考えてみましょう


・グラフ1 全人口と年代別出国者数

グラフ1は全人口を棒グラフ(左軸)に、全出国者数(赤)と20代(緑)、40代(青)、60代(紫)の出国者数を折れ線グラフ(右軸)にしたもの。


 全出国者数をみると、人口の増加に伴って増えるが、2000年に入って人口の増加が滞り始めると、やはりそれに合わせて全出国者数も伸び悩んでいる。そして、2008、2009年と人口が減少しはじめると、全出国者数も減少している。総じて、人口と対応していることがわかります。(ちなみに2003年はSARSの年です)。


 今度は若者(ここでは20〜29歳)だけをみると、既に1996年にピークを迎え、あとは減少しつづけている。結果2005年には40代が若者の出国数を抜き、60代も近付きつつある。これだけみると、若者の「内向き志向」が現れている、ようにみえる。



・グラフ2.全出国者数と若者(20代)の出国者数

 グラフ2は、全出国者数と若者の出国者数のみをとりだして比較したもの。全出国者数もゆるやかに減少に向かってはいるが、それでは説明しきれないほど若者の出国者数が減っている!
 なんて言ったって「1996年の463万人から、2006年には298万人にまで減少」(2008年には284万人)したのだ!


…たしかに、ここまでだと「若者内向き志向」説が正しいように思われます。



 しかし、前回と同じく20代の人口が減ってるんじゃないんですか、という疑問がでてきます。
(出国者数には複数回出国している人も含まれているので、20代の人口がそのまま母数となるわけではないが、この際細かいことはいいでしょう。)


次のグラフを見てください。


・グラフ3 全人口と若者(20代)人口


全人口に若者人口の推移を重ねたものです。
これをみると確かに全人口のピークは2005年前後ですが、若者人口のピークは1996年ごろということがわかります。



そう。
先ほどみたグラフ(全出国者数と若者の出国者数)でみた、若者出国者数のピークの年です。


・グラフ2 全出国者数と若者(20代)の出国者数(再掲)


 そこで、若者出国者数と若者人口の二つを重ねると


・グラフ4 20代人口と20代の出国者数


 このように、相関があるように見えます(統計学的な検証はしていないけれど)。
近似曲線をつけるとこんなかんじ。まぁ直線にしても意味ないか…。


・グラフ5 20代人口と20代の出国者数(近似曲線付き)


 つまり、若者の出国者数の減少には、若者の人口減少が大きく関わっているのです。全出国者数の減少に比べて、若者の出国者数の減少が著しく、また早い時期にはじまったのは、若者の人口が他の年代に比べて減少著しく、また早い時期から減少しているからといえます。(当然ですが60代人口は増えています)


 若者出向者率のピークだった年として頻繁に1996年が持ち出されますが、
「あぁ若者人口も一番多かった年だな」
と思い出せればよい、ということですかね。


小結論:若者の海外出国者数の減少は、かなりの部分若者人口減少で説明がつく。


▲若者の出国率からみる、「海外旅行離れ」
 さて、ここで、「若者の出国者数/若者の人口」という記事2の論点へうつりたいと思います。

 1964年から各年の「若者の出国者数/若者の人口」(若者はいずれも20~29歳)をグラフにするといかのようになります。


・グラフ6 若者の出国者数/若者人口


 これをみると、やはり1996年から若者の出国率も減少していることがわかります。
2009年若者の出国者数(2637154人)は、ピーク時1996年(4629356人)の43%減ですが、人口は1996年(約19130000人)に対して2009年(約14415000人)は24%減です。従って、人口減少以外の要因でも、若者の中で出国する人が減少しているようです。


・グラフ7 若者の人口構成比と出国者構成比

 経済的要因、価値観の変容様々なことが考えられますが、ここでは検証できないので、割愛します。


 このように、若者の出国率をみれば、「若者の海外離れ」は進んでいるといわざるを得ません。


 しかし、最後に以下のグラフを見て下さい。


・グラフ8 20代の出国率と40代の出国率

 
 これは、20代の出国率(赤)と40代の出国率(青)を比較したものです。たしかにここ15年の動きだけをみると、20代の出国率は減少傾向にあるのに対し、40代の出国率は増加傾向にあるように思えます(60代も同様です)。
 しかし、視野を広く持ち1964年からみてみると、1978年までは年代によって差の無かった海外への出国率が、この年から差が開き始めています。若者の出国率は増加し続けるのに対し、40代の出国率は停滞します。
 「若者の内向き志向」論者に、「たしかに若者の出国者率は減っていますが、それでも40代や60代よりもずっと高いですよ」と言うと、「海外旅行を一番しやすいのは若者なのだから、若者の出国率が高いのは当たり前だ」と返されますが、それは常に正しいわけではないことがここからわかります。若者の出国率が他の年代と比べて高いのは(仮に「外向き志向」とでもいいましょうか)80年代からの比較的新しい傾向であること(逆に言えばこの時期は40代の出国率が若者より低い、中年の「内向き志向」の時期といえる?)、そして2003年ごろからは再び出国率に年代の差がなくなってきたことがわかります。

 今長期的な視点でみましたが、直近でも注目に値すべき傾向が見られます。すなわち2007年以降、40代の出国率も急激に下がっているということです。出国者数も減っており、08年前年比5.0%減、09年同9.1%減です。これは若者の減少率よりも大きい数字です(同08年7.3減、09年0.7増)。この点について、これまで特に指摘されることはなかったように思われます。今後どうなっていうのかはわかりませんし、これをもって(中年の?)「内向き志向」などというつもりはありませんが、若者の出国率に一喜一憂するなら、他の年代についても関心をもつのがフェアではないでしょうか。


 「昔と今じゃ20代の学生率も違うし、海外旅行への行きやすさも全然違う。今と同じ状況なら、20代はもっと海外へでていただろう」と思う方がいらっしゃると思います。そう思うことは最もかもしれません。私が疑問に思うことは、同じ想像力が「若者」には向けられないことなのです。
 若者も「内向き志向」という心理的な要因だけで、出国しなくなったのではないかもしれない。経済的理由、社会的理由、様々な理由があるかもしれないのです。若者の「〜しなくなった」だけ注目され、それが「志向」という心理的な要因に帰属させるのはなぜなのでしょうか…。


 要するにここで言いたかったことは以下の4点です。


1.若者の出国者数の減少は、若者の人口減少とかなりシンクロしている
2.若者出国者率は減っている
3.しかし、その要因については、心理的、社会的、経済的な側面から検証しなければならず、「内向き志向」という心理的な要因にのみに帰属させることはできない
4.直近のデータでは40代の出国者数(率)も減少している



▲若者の旅行意識からみる、「海外旅行離れ」
 さて、では若者は「内向き志向」と呼ばれるように、海外旅行に行く気をなくしているのでしょうか。これに関してはあまり良い資料がないのですが、以下の二点の資料を用いたいと思います。


1.マクロミルという市場調査会社によるインターネット調査

2008年「海外旅行に関する調査」
 −全国の15才〜39才の男女(マクロミルモニタ会員)
 −インターネットリサーチ
 −2008年7月23日(水)〜7月25日(金)
 −4740サンプル(性別・年代で割付 各470)
2010年「海外旅行に関する調査」
 −東京觥・神奈川県・千葉県・埼玉県の 20 才以上の会社員(公務員、経営者・役員含む)の男女(マクロミルモニタ会員)
 −インターネットリサーチ
 −2010年8月25日(水)〜8月27日(金)
 −有効回答数1000


2008年調査の結果は以下の通り
 ・海外旅行に「興味がある」「やや興味がある」の合計は、10代で74.35%(36.7%)、20代で76.8%(42.3%)で、かなり高い割合で、海外旅行に興味を持っていることがうかがえる。()は「興味がある」の割合。

 ・「2010年末までにプライベート目的で海外旅行に行きたいと思いますか」という問いに「行きたい」「やや行きたい」と答えたのは、10代で60%(34.2%)、20代で71.3%(44.3%)と、かなり高い割合で、「興味がある」だけでなく、積極的に「行きたい」(ややを含む)と思っていることがわかる。

 ・3年以内に海外旅行に行ったことがあると答えた人は、10代で66.753%、20代で60.9%、30代で45.25%となっている。

 
2010年調査の結果は以下の通り
 ・海外旅行に「興味がある」「やや興味がある」の合計は、20代で92.0%と非常に高い
 ・仕事帰りに出発する夜発便等を利用した「週末海外旅行に行ってみたいか」という問いに、83.2%の20代が「行ってみたい」「やや行ってみたい」と答えた。
 ・海外旅行に「行ったことがある」と答えたのは、20代で75.6%、40代で86.4%


2. 金春姫・鎌田裕美、2010「若者の旅行に対する意識」『成城大學經濟研究』177-191.
 2010年3月に、成城大学経済学部の紀要に提出された論文。

 −goo リサーチ
 −2009年6月26日〜29日
 −goo リサーチのモニターの20〜25歳の男女。
 −学生,就労者(経営者・役員,会社員,公務員,自営業),その他の就労者(フリーター等)
 −サンプル数508

 
 ・「いつか行ってみたい観光地」が「海外にある」と答えた人は70%をこえた。



 経年調査としてみることはできませんが、とりあえず出国者数と出国者率が減少した後でも、「海外旅行に行きたい」と考えている20代は非常に多いことがわかります。つまり、少なくとも「興味」や「意志」レベルでの若者の「内向き志向」傾向は見られません。たしかに昔はもっと「興味」や「意志」が高かったかもしれませんが、それはデータがないのでわかりません。少なくとも、心理的要因で海外旅行へ行かなくなったことを説明するのが難しいことを示しているのではないでしょうか。
 また、調査から20代より上の世代と比べて実際に海外旅行へ行っている割合もそれほどかわらない可能性が示されていることから、「20代という期間での出国」という条件こだわらなければ、現在の若者(20代)も多くが、海外旅行を経験していることがわかります。海外を経験している「若者」は多いのです。なぜ彼等が、「20代」に海外へ行かなかったからといって非難されなければならないのでしょう。


■結論
・若者の出国者数の減少は、若者人口減少が大きく影響している
・若者出国者率は減っているが、それをもたらす要因は明らかではない。
・若者の多くは海外へ行きたいと思っているし、過去に行ったことある人は大勢いる。


→「若者が内向き志向になった」とは言えない
 (若者の出国率の低下がみられるが、それが心理的要因によるものかは明らかでない)


■■前回を含めたまとめ■■


●結論:「若者が内向き志向になった」とは言えない
 ・留学に関しては実数も割合も減っていない
 ・若者(20代)の「出国率」は減っているが、その原因が「内向き志向」かどうかは不明
  (若者の出国への興味は高い)


●「若者の内向き志向」を語るには
 「若者」に「内向き志向」という傾向が見られるということを主張するためには、「若者」とはなにを指すのかを明確にし、「内向き志向」を論理的に妥当かつ検証可能な形で定義しなければなりません。しかし現状はそれらがなにを指すのかが示されないまま、言葉だけが独り歩きしています。

 さかのぼれば「若者の内向き志向」は、「留学者数」「出国者数」の減少が発表されたことで普及してきた言葉ですが、これらのデータと「若者の内向き志向」を結びつける論には基本的な誤りが三つあります。
 一つは、母数との関係です。若者を論じるのに「留学者数」や「出国者数」が妥当かどうかは考えられていません。例えば「留学者数」は全年代の数字であって、年代別は文科省からは発表されていません。「留学するのは若者」という直観から語られているのだと思いますが、乱暴です。最も、受け入れ国の統計には年代別のものがあり、この直観はそれなりに妥当であることは確認できるのですが。出国者に関連して「出国率」なるものが語られますが、これも非常にあやしげなものです。これは、その年に出国した20代の数を、20代の人口で割ったものですが、ここでは複数回出国した人が考慮されません。(このエントリーではあえてこの「出国率」を用いました)
 二つ目の誤りは若い世代の人口の減少という基本的な事実が無視されていることです。留学者数や出国者数の減少は、ある程度までは若い世代の人口の減少で説明できます。他の世代の人口増加と若い世代の人口減少を無視して、それぞれの出国者数を比べることは非常に愚かです。しかも、「内向き」といいたいときは人口減少を無視し、少年犯罪が減っているというデータに対しては人口減少を言いだしてくる輩がいて閉口です。
 三つ目の誤りは、社会的、経済的要因を一切考慮せずに、数の減少を全て心理的な要因に帰属させている点です。仮に若者が留学や海外旅行へ行かなくなったとしても、それがすべて若者の心情に由来するものかどうかはわかりません。例えば、アメリカやハワイやヨーロッパといったかつての人気旅行先の社会的魅力が減じた、海外旅行がステータスとならなくなった、大学が忙しくなった、学生が自由に使えるお金が減った、就職活動の時期が早まった、…など心理的な要因以外にも述べようと思えばなんでも述べることができるはずなのに、なぜか心理的な要因のみ語られます(人が、個人の行動の原因を心理的なものに帰属する傾向があることは心理学で知られています)。
 以上が、今回「若者の内向き志向」論を検証して、見えてきた点です。私達一般人は、旅行業界の焦りを共有する必要はないのであって、若者が海外へでようがでまいが放っておけばよいと思います。旅行や留学経験者は、周りの人に勧める程度におさえておきたいところです。「若者」全体のバッシングとなってしまうと、それこそ「若者」へ害となる気がしてなりません。また、先に見たような、ほとんど「論」として成り立っていないものでも、その誤りを指摘するのは大変です。「誤った知識」と「正しい知識」という区別、「正しい知識」への訂正、といった行為それ自体についても考察したいところですが、ここではとりあえず、よくある道徳的な教訓でしめておきましょう。耳触りのよい言葉に飛びついてそれを再生産する前に、ふと立ち止まって冷静に判断して「俗説」が広まるのを防ぎましょう。ってなかんじで。


お付き合いいただきありがとうございました。


→2012年12月15日に最新のデータを追加して新しく記事を書きました

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

今回作ったグラフは全て以下をもとにしています。
 ・法務省出入国管理統計
   −1964〜2005年はこちらから
   −2006〜2009はこちらから
 ・統計局人口推計
  −1964〜2000年はこちらから
  −2000〜2009年はこちらから

ネットで同じデータを用いてるにも関わらずなぜか数値や%が異なるデータに出会ったので、ここにそのデータをまとめたもの(一部)を載せておきます。
誤りがあれば指摘していただけるとありがたいです。

・表1、2 人口・出国者数データ


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

追記①(12月27日)

「労働者の国際移動に関する世論調査」(2010年7月調査)によると、「若い世代が外国で働く経験を積むべきか」という問いに対しては各年代に差がなかったのに対し、「外国での就労への関心」は20代が一番高い。まぁ当然といえば当然ですが…。また、経年調査がどうかはちょっとわかんなかったので、過去のと比べられませんでした。

・グラフ9 若い世代は外国で働く経験を積むべきか

・グラフ10 外国での就労の関心


追記②(12月27日)
こんな記事を見つけました。


日本ダメなら中国・東南アジア キャリア求める若者の海外流出

日本総研が09年に発表したレポートでは、日本人の国外流出数は、07年10月〜08年9月の1年間で10万人を突破。20代から40代など若い世代が中心で、最近の若者の内向き志向が話題になる中、過去20年間で最大だったという。(2010/11/20)

Jcastニュースより

これによれば「若者」には40代も含むようで…笑
もうどーしましょーってかんじなのですが。
今回のブログで検証したことを考慮すると「過去20年間で最大だった」国外流出数の大部分は40代が引っ張っていると思われます。



■感想(2011年1月11日→8月13日)

 私自身は、旅行が好きで様々な国を旅した経験があります。しかし、あまり人に勧めてはいません。というのも、私にとって意味づけできない(あるいはどのようにでも意味づけできる)旅が多く、旅の「良さ」なるものをうまく伝えられないからです。結局私が旅をするのは、旅が好きだからでなにかを得られるからではありません。私の場合、そういう期待をしていくと期待に沿った経験しかできないか、期待はずれでがっかりしてしまいます。いずれにせよ、旅が好きと感じていない人に、好きになったら、と勧めるのはなんだか変な気がするのです。

 とはいえ、ずっとこのような考え方だったかというとそうではありません。熱心に宣教してまわった時期もありました。しかし、ふと、自分が経験したものは何でも(たとえ嫌だったことでも!)人に勧めていることに気が付きました。さらにいえば、自分が経験したものは誰もが経験<すべき>とさえ考えていることに気が付きました。また一方で、私は人になにかを押し付けられること(過度なリコメンド)に対して不快感を感じ、文句を言ってきた人間でもありました。この矛盾に気がついて少し気をつけるようになりました。

 中学・高校と部活をやっていた人は、中学・高校では部活をやるものだと思い、そしてそうすべきだと思ってしまいます。しかも、たとえ自分の部活体験が当時嫌な体験でしかなかったとしても、「集団行動の大切さや礼儀が身につく」「基礎体力が付く」といったもっともらしい理由をつけてその「良さ」が説明されます。こうした感覚は、部活を行っていない人にも様々な形で受け継がれることになり、人によっては焦燥感を覚えるかもしれません。海外旅行へ行くという経験もこれと同じような構図ではないでしょうか。海外旅行が良い体験であることを様々に理由づけし、それが行っていない人にも共有されてしまう。

 本文で紹介した、他者の行動の原因を、本人の性格や態度・能力など内的要因によって解釈する傾向があることを明らかにしたロス・リーという社会心理学者は、人は自分と同じような特性、意見、行動を持つ人が比較的多いと推測する傾向があることも明らかにしました。これは、人は自分と同じような背景、経験、興味、価値観を持つ人と繋がる傾向があること、自分の立場や行動が妥当だったと思いたがる傾向があることなどによって説明されます。このような研究は、私達には目の錯覚があるように「心の錯覚」のようなものもあることを教えてくれて、非常に興味深いです。

 このような錯覚とどのように付き合っていけばよいのか。この点については私も考え続けています。結局、“他者”へ想像力を広げる、他者の声を聴く、お互いに指摘し合う、バイアスを知る…といった常識的な答えに尽きるのでしょうか。難しい問題ですが、ブログは自分の言動をたまに反省するのに良い機会を与えてくれるものだな、と思いました。