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宮原浩二郎、2006,「『復興』とは何か」『先端社会研究』第5号

 「災害復興制度の研究」の特集ということで、関西学院大学の「『人類の幸福に資する社会調査』の研究」というプログラムの成果の一部だそうです。以前も紹介した災害復興制度研究所のメンバーがメインに執筆しています。今回の東日本大震災以後、「復興」に関して様々な意見が飛び交っていますが、これまでに行われてきた「復興」の問題点や忘れられやすい視点など、復興の専門家の知見を多いに活用すべきではないでしょうか。というわけで、この『先端社会研究』第5号から、いくつかの論文を紹介したいと思います。
 今回は社会学者の宮原浩二郎(敬称略)による「復興」とはなにか、という論文です。菅さんが繰り返す「創造的復興」という概念のあやうさにもふれており、概念の検討という一見地味(?)な作業ではありますが、非常にアクチュアルな論文です。週刊誌風のタイトルをつけるなら「『復旧から復興へ』に待った!」ってかんじでしょうか。(笑)


 論文の内容に映る前にこの号に掲載されている論文の一覧を引用しておきます。どれも興味深いものばかりです。


・宮原浩二郎「『復興』とは何か――再生型災害復興と成熟社会」
・荏原明則「被災者生活再建支援の制度化と課題」
・山崎栄一「自治体による被災者への独自施策」
・村上芳夫「米国・緊急事態管理庁の組織再編とその影響」
・山泰幸「『象徴的復興』とは何か」
・池埜 聡「How does clinical workers' victimization history affect their working relationship with the survivors of the Great Hanshin-Awaji Earthquake? ―An exploratory study for the establishment of post-disaster clinical services」
・石田淳・高坂健次・浜田宏「住宅再建共済制度に関する数理社会学的考察I――資産ダメージ率の分析」「住宅再建共済制度に関する数理社会学的考察II――加入率の分析」「住宅再建共済制度に関する数理社会学的考察III」
・山中茂樹「災害復興基本法への道」
(参考 災害復興制度研究所HP http://goo.gl/x8rOM 2011/5/14現在)



○宮原浩二郎、2006,「『復興』とは何か」『先端社会研究』第5号


■要約
 この論文で筆者は「復興」という言葉のこれまでの使われ方を検討したうえで、その問題点を指摘し、「成熟社会」にあった「復興」を行うために「再生型復興」という概念を提唱する。

 行政における「復興」という言葉は、関東大震災後の「帝都復興」のイメージを引き継いでいるのか「都市の開発・再開発」に重心を置くものである。筆者は塩崎賢明や広原盛明などの議論を引き、政府・自治体が災害後すぐに復興都市計画を思い立ち、「復興」を「開発・再開発」につなげる「習性」(塩崎)、その「開発主義・成長主義イデオロギー」(広原)を批判する。実際に阪神淡路大震災後、こうした「開発・再開発」によって、復興公営住宅での自殺、孤独死や零細商工業者の倒産、下町コミュニティの崩壊などの困難が現在(2006年)も続いている。兵庫県が掲げた「創造的復興」も、このイメージの下にあったため、以下のような批判があげられた。

私は最近、単にもとに戻すだけでよかったと思う。(中略)「創造的復興」と言って人々の暮らしの普及を置き去りにした。すぐにもとの生活に戻れるようにするのが公の仕事であり、応急処置をしないで後手にまわるのではなく、すぐに手助けしてもとに戻す、これに全力を挙げるべきだと思う。
 2005年1月29日「大震災10年の教訓――災害列島日本の生活保障」
 市民社会フォーラム第24回例会
 (17pp 中略は引用者=私=Pada)

 筆者はこのような問題を引き起こす可能性を持つ、「成長社会」に適合的な「復興」概念を批判し、「成熟社会」に合う「被災地住民のくらしの再生」を重視する「復興」概念を提起する。それが「再生的復興」である。この意味で復興は「災害によって衰えた被災者および被災地が再生すること」「一度衰えた被災者および被災地が再び盛んになること」と定義される。


 一般に「復旧」と「復興」は区別されている。「復旧」は「元の状態に戻すこと」を意味すると考えられているのに対し、「復興」は「災害前より良くする」という意味が付されている。全国の自治体でも、復旧が「応急的・個別的に公共施設(ハード)を原状回復すること」のように位置づけられているのに対し、「復興」は「『復旧』以後、中長期的・総合的に地域全体(公共施設、都市基盤、住宅、地域経済・産業、住民生活、福祉や文化など。ソフトも含む)を改善すること」と位置付けられている。
 筆者はこれらのように、「復興」という言葉が「復旧」の後に行われる、というイメージこそが問題であると考えている。
 そもそも法的概念として「復興」という語は存在しない。例えば災害救助法や災害対策基本法阪神淡路大震災後成立した被災者生活再建支援法には「復興」という言葉が登場しないか、しても定義されず復旧との明確な区別がなされているわけではない。
 これは考えてみれば当然である。被災地を元に戻したあとのプラスをもたらす施策として「復興」が考えられているならば、それは制度化されるべきではない。実際、「復旧」が政策的判断を要しない特殊な公共事業であるのに対して、「復興」は他の公共事業と同列の「一般公共事業」として扱われている。復興を制度化しないことは、復興に明確な定義を与えることが困難なため合理的なのである。しかし、一方で復興が制度化されていないため、「災害前よりも良くする」ための復興と位置付けられると、コミュニティ維持などの被災地の再生に不可欠な支援のための国費も出し渋る状況も生み出している。
 筆者は、「災害によって衰えた被災者および被災地が再生すること」をこそ中心におくべきだと考えている。「災害によって衰えた被災者および被災地が再生する」ために、必要な都市インフラや公共施設の復旧は当然行うが、これに資さない復旧は他の有効な方策に回すべきなのだ。筆者はこのように言い「災害によって衰えた被災者および被災地が再生する」「復興」を目的とし、「復旧」はそのための手段と位置付けるべきと主張する。


■考察
 能力が低すぎて、うまく要約ができませんでした。要するに、「復興」を「災害によって衰えた被災者および被災地が再生すること」と考えること、そしてそれを「復旧+α」と考えるのではなく、そのような復興をこそ中核において「復旧」は手段とすべきだ、ということだと思います。(うーん。やっぱりうまく要約できない。。。)


 それは置いておいて。今回の地震津波後も、復旧や復興という言葉が飛び交いました。菅政権は「創造的復興」を提唱もしています。ここで言われている復興も宮原氏のいうように、相変わらず「開発・再開発」的な考え方が軸になっているように思われる。例えば、政府が要綱案を出した復興特別措置法では「土地利用や産業復興、社会基盤整備などに関する復興計画を策定し、国による認定を経て、税制上の優遇措置や土地利用などに関する規制の適用除外や緩和措置などの特例措置を受けることができるとしています。*1」と、「開発主義・成長主義イデオロギー」が見え隠れする。
 一方、復興構想会議から提出された7原則には「被災地の広域性・多様性を踏まえつつ、地域・コミュニティ主体の復興を基本とする。国は復興の全体方針と制度設計によってそれを支える。」という原則が取り入れられ、宮原氏の主張するような、コミュニティを中心に考えた「復興」を行おうという意志が見られる。しかし、これがどれだけ実行されるかは疑問だ。宮原氏の論文でも、具体的にいかにコミュニティ中心に復興を組み立てるのかについては、詳しく書かれていない。阪神淡路大震災では、仮設住宅への入居が年齢、所得、家族構成など行政的基準に則して決定されたためにコミュニティが分断された。新潟中越沖地震ではこれが反省され、集落単位での入居が実現したが、今回も報道を見る限りそのことを意識しているようだ。
 宮原氏は、コミュニティを支える象徴、被災地復興の担い手である「中間層」に対する支援、「復興した」とする状態の測定などへ注意を向けるように提案している。今回の震災で、どれだけ「コミュニティ単位」を実現できるのか、復興構想会議及び民主党政権の力が問われていると思う。


*参考
・「全国自治体調査」(「第Ⅲ章 復興の定義」『災害復興研究』Vol.2(2010年)にこの調査結果が掲載されています。無料で読めます。→PDFhttp://goo.gl/bddij
・災害復興制度研究所
 −第1回提言(2011/3/17)「東日本大震災を全国民の支援で乗り切るための方策について」
  http://goo.gl/oKAPS
 −第2回提言(2011/3/25)「被災者生活再建支援に特化した制度の創設について」
  http://goo.gl/nqohB
 −第3回提言(2011/3/25)「特別措置法関連」http://goo.gl/t66ku
  資料:「食事供与・生活支援・災害保護事業」http://goo.gl/r0wrV

 その他はHPをご覧ください(http://www.fukkou.net/e-japan/introduction.html

   

先端社会研究〈第5号〉特集 災害復興制度の研究

先端社会研究〈第5号〉特集 災害復興制度の研究

*1:NHKニュース「復興特別措置法 政府が要綱案」5月14日 4時23分http://goo.gl/UquGA