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読書メモ

・石川文康,1995,『カント入門』筑摩書房
 全七章でカントの批判哲学を概観する入門書。カントの生涯よりも「内面のドラマ」を描くという意識で書かれたそうだが、割とオーソドックスな構成。1,2章で批判哲学のエッセンスと著者が考える「仮象批判」と「真理の証明不可能性」が、どのようにカントの中で醸成されたのかを描き(普通に言えば伝記的部分)、3,4章が純粋理性批判、5章が実践理性批判、6章は判断力批判、そして7章は短いながらもカントの宗教論について述べられている。著者はカントの『単なる理性の限界内における宗教』(1793)を第四批判書と呼んでいるので、著者にとってなにか思い入れがあるのか。人間学や自然地理学、前批判期の自然科学的著作についても軽く触れられていて、小さい本なのによく目配りされている。法・政治・歴史については触れられていない。
 1,2章は多少ぐだぐだした感があるが、メインの3,4章は読みやすいしわかりやすい。5,6,7章も読みやすいが、バタバタして消化不良という感じ。ただ無理してでも三批判書+宗教論をある程度一貫した見方で(?)提示してくれたおかげで、カントの全体像がうすぼんやり浮かんでくるという意味では良い本だと思う。

カント入門 (ちくま新書)

カント入門 (ちくま新書)


・有福孝岳・牧野英二編,2012,『カントを学ぶ人のために』世界思想社
 「カントの生涯と著作」、「カントの哲学思想」、「カントと現代」の三部からなる編著。すべてを読んだわけではないが、すごく良い。全32人の執筆者による編著なので、上の書のような一貫したストーリーはないが、前から読んでもストーリーを感じることができるつくりにはなっている。カント研究が丁寧に紹介され、注もつくので「学ぶ」という視点がより強く出ている。石川本がカントの「内面のドラマ」を描くため、カントに寄り添って書かれたものだとしたら、カントを客観的にその限界を含めて全体像を眺めるのが本書だろう。
 各章・節は細かく分かれているので、必要な部分だけ読むことができるし、それぞれは非常に分かりやすい。人名・書名・作品名だけだが索引もついている。

カントを学ぶ人のために

カントを学ぶ人のために